第27話「ニルヴァーナ騎士候補生・大試験大会 その⑥」
「くくくく……あーははははっはははは!!! 誰も何も知らない!!アハハハハハ!!!」
突如、金髪女が派手に笑いだした。その高笑いはマイク無しでもスタンドに伝わるほど響いた。観客も呆然としており、さっきまでの歓声が静まり返っている。一体何を笑っているんだろう? そんな疑問よりも先に気味が悪いという感情が来る。
「こいつはね、ただ参加者に殺される為のゲルゲルキングじゃないの。まして、ポイントがつく為のものでもないわ。オリジナルの特注品なのよ。さあ、やっちゃいなさい!」
「ふぐぐぐぐ!?」
ゲルゲルキングは体内に取り込んだウィザードチーム、野郎ぜたちに何かをした。ゲルゲルは言うまでもなくゲル状の身体をしていて、中が透けて見える。取り込んだ彼らが急に苦しみだしたのだ。まるで海の中で溺れているように苦しみ、もがく……やがて抵抗をしなくなり、だらんと首が下がった。次第に彼らの身体が液状に溶けていき、残ったのは骨だけだった。それを見た客席から悲鳴が聞こえてくる。
「なっ、何をしたの!?」
「ふふふ、魔力を吸収したの。身体の隅から隅まで全てね。人間の体には魔力が存在するの。魔法使いもそうでない者も全て。でも、魔力が枯渇すると、人間は溶け、最後は骨になるのよ」
「なんで、そんなことをしたのしたの!」
「お前を殺すために決まってんだろ!!」
茶色のローブを脱ぐ金髪女。そして、紫髪の女も同時にローブを脱いだ。
その顔は私のよく知る顔だった。
「シェリル、ミリィ!? 」
「うふふふ、大正解。でも、このシェリルは残念ながら偽物よ。これは
それでも愛おしそうにそれを抱きしめるミリィ。どこか遠い瞳をしながら、悲しさと嬉しさを込めた複雑な表情をしている。かつて愛し合った日々を思い出しているのだろうか。だが、人形兵器のシェリルは無言だった。
「理沙、あれは一体?」
「確か、人型の魔力吸収兵器ッス。不特定多数の魔力を奪って自分の物にするとかいう。でも、実用化はできずに頓挫したとか……」
理沙の解説にうんうんと頷くミリィ。ふふふと笑みを浮かべつつ、口を開く。
「そうよ。戦争が終結してから、そういった兵器関連の研究・開発はおおっぴらには禁止されているの。また戦争の火種になっても困るからね。この技術も一時期研究されたけど、国が禁止しておジャンになったの。でも、私は偶然にもその研究を詳しく知ることができてね。後はアレンジを加えて実現させたの。大勢の人間から気づかれずに魔力を自分の物に出来る……魔道士には喉が手が出るほど便利な兵器よ!」
「でも、それって気づかれるんじゃ?」
他人の魔力を奪えば、相手は必ず気付くだろう。人にバレずに魔力を奪うことなんてできるのだろうか?だが、ミリィはふふんと鼻を高くしている。どうも話したくて仕方がないらしい。
「チビっ子にもわかるように説明してあげる。あなたはお財布から1ガルド無くす事と、1万ガルド無くす事、どっちを気にする?」
「……1万ガルド」
「正解。ま、そうよね。1ガルド無くした所で気にする人はそういない。中には無くしたことすら気づかない人もいるんじゃないかしら? それと同じ。奪う量を調整すればいいだけのこと。1ガルドを1億人から奪えば、あっという間に1億ガルドになるわ。それと同じよ。さっきも言ったけど、人間は魔導の才能の有無に関わらず魔力を持つの。人の多い場所にこれを放てばすぐに魔力を得られる。人型だし、そもそも目立たない場所にいるから気づかれない利点もあるわ。今こうしている間にも少しずつ吸っているの。でも、ま、ネタばらししたし、もうセーブするのもいいかしら?それ!」
パチンと指を鳴らすミリィ。
「うぐああああああああああ」
「きゃああああああああああああ!! 」
「うぎゃあああああああああああああああ!! 」
観客席から大勢の悲鳴が聞こえてきた。背後を振り返ると、観客席で人々が苦しんでいる。大声で叫び、声を荒げて、悲鳴を上げた。老若男女、子供も大人も例外は誰一人としていない。何故、彼らは急に叫びだしたのだろうか。一瞬、最悪の結末が頭をよぎる。ゲルに入った連中が魔力を根こそぎ奪われて骨になった。魔力を奪う量を極端に増やして、目標をここの人達に設定したら……。
「あんた、まさか!?」
「ふふふ、そのまさかよ。お客さんの魔力は全て私の物だってこと!」
人々はやがて声を枯らし、気を失い、倒れていく。そして皮膚が溶けだし、骨と服だけになっていく。液状になった魔力が地面に流れ、ミリィの元に集合する。他の観客たちが慌てて逃げようとするが、足に力が入らないのか? そのまま倒れ、骨になっていく。男も女も子供も老人も、次々と骨になっていく。理科室で見た人体模型よりもリアルな骸骨だ。そのスピードはとても早く、まるでDVDを倍速で早送りしているかのように人々は液状化し、骨になっていく。10分も経たない内にいつしか骨だらけになっていき、やがて苦しむ声も聞こえなくなった。
「な、なんて事を!!」
「この兵器は一体だけじゃないのよ。ニルヴァーナ中に置いてあるの。今頃は城の兵士や街の住人も骨だらけでしょうね。そして魔力は私に向かって流れてくる。ああ、漲ってくるわ! 身体中に魔力という魔力が集まり、高まっていく! 男が精力を高めるのと同じ快感。そんな感じの高ぶりが私を興奮させ、身体を熱くさせる!でも、何故だか頭は冷静で客観的……」
「アンタ、一体なんでこんなことしたの!?」
「だから、お前を殺すために決まってんだろ!? クソボケェェェェェ!!」
大音量の絶叫が響く。ミリィの顔はもはや人形のような美人顔ではない。
悪鬼修羅といった鬼のような形相だ。
「あの時……そこにいる斧のボイン女に私の魔法が跳ね返された。咄嗟にテレポートで逃げることができたけど、大火傷したわ。けれど魔力を吸収しながら、どうにか怪我を治して治療していたのよ。街に出たらアンタがシェリルを殺したと話題になっていて、腸が煮えくり返ったわ。だから、嘘の身分証明をして大会に潜り込み、魔力を集め、高めてきた。私はね、純粋にお前を殺したいのよ、メイ。シェリルの仇をとって、あとはこの世界を闇に葬る。そして私も死ぬ。大丈夫、お友達もまとめて殺してあげるから。それなら寂しくないっしょ? 」
「コイツ……想像以上に狂っているッス」
「理沙と同意見よ。もう一度殺してやる必要があるみたいね」
理沙とノノは身構える。だが、その姿勢にミリィは嫌悪感を表す。
「フン……行きな、私のかわいいムクロ達よ!」
ミリィが再び指を鳴らすと、観客席の骨たちが立ち上がりだした。手には魔法と思われる剣や盾を装備している。
「お前はそいつらと遊んでな!
ミリィはそう叫ぶと、周囲に何か強力な壁に囲まれているのを感じた。でも見た目は特に何も変わっていない。宙に触れてみると、壁の感触が手に残る。何もない場所に壁があるようだ。
「本来、結界は詠唱時間が長い呪文を唱える時、敵に妨害されないために張るものなんけど、その応用で何もない場所に独立した空間を造れるの。並の魔道士なら短時間しか維持できないけど、私なら無限。つまり、あんたはアタシを倒すまでここから出られない。お友達もこの空間には手を出せないわ。ゆっくりなぶり殺して、命乞いして、醜く殺してあげる♡」
「全力で相手してやるわ、ミリィ。醜く死ぬのはアンタよ!」
私はセグンダディオの剣先をミリィに向け、宣言した。
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