第24話「ニルヴァーナ騎士候補生・大試験大会 その⑤」


「グラン・アリーナ」地下一階。

そこには、食堂とイートインスペースコーナーが併設されている。食堂では大勢の観客や選手たちが雑談しつつ、食事を楽しんでいた。人口密度が高く、たくさんある席がほとんど埋まっている。バイトであろう少年少女たちや厨房のおばちゃん達が働きまくっており、傍から見ても忙しいという事がよくわかる。




一方、隣のイートインスペースでは人が少なかったので、私達はそこで食事をすることにした。ここでは売店で簡単な物を買って食べてもいいし、弁当があるならそれをここで食べていいそうだ。正直、人が大勢いるところでは食べたくも飲みたくもないので、ここはちょうどいい。




某チェーンの喫茶店とか入ったとき、あまりにも人が多すぎて辟易した経験がないだろうか。コーヒーを飲みたいとはいえ、周りが騒がしいのは御免こうむる。やはり静かでのんびりした所で食べるのが一番である。その意見に関しては私はもちろん、他のみんなも同じだった。





「さ、召し上がれ。ボルドーさん達と協力して作ったから味は保障済みよ」




「おお、お姉さん流石ッス! パサーナの丸焼きとラドタートルの蒸し焼きとは、なかなか豪快ッスね~」




案の定、理沙が嬉しそうな声を上げる。瞳は既にギラギラと輝いており、早く食べたくて仕方ないようだ。その様子をお義父さん、お義母さん、お姉ちゃんが笑っている。ノノは落ちついてお茶を飲んでいるが、ロランはお茶の用意をしている。ちなみに飲み物はセルフサービスとなっていて、水がポットに入っており、好きな方を選んで紙コップで入れるようになっている。




「パサーナって何? 」




「ナイトゼナ周辺で釣れるお魚だよ。ちょっと捕まえにくいんだけど、とってもおいしいんだよ☆」




ミオがそう教えてくれた。私たちは「いただきまーす」とさっそく食べることに。ガツガツ食うミオと理沙に気後れしつつ、私はゆっくり食べる。

あまり早食いは得意ではないけど、お腹が空いているのは間違いない。ペースはゆっくりだが、私は確実にいつもより大量に食べている。しばらく談笑していたが……。




「さて、メインは次だ。三人とも気を引き締めていけよ」




お義父さんの言葉に頷く私たち。今までのは前座だ。本戦でクイズとかあったら雰囲気ぶち壊しだからね。次こそは血で血を洗う正真正銘の真剣勝負。多分、残ったチーム同士での戦いとなるだろう。どんな勝負が待っているのだろうか。けど、強い相手と戦うのは少なからず楽しみでもある。油断はできないけど、どこか楽しんでいる自分もいる。




「お前たちだな? 先ほどゴーレムを切裂いたのは」




そう言って誰かが私たちの傍に近づいてきた。茶色のローブをかぶった二人組みのようだ。身体付きが細身で声も透き通っている。おそらく女性だろう。一人は髪の毛が紫色、もう一人は金髪だ。背丈はどちらも似ていて150程度かな。




「悪いけどサインと握手はお断りよ」




私がそう言うと女性は薄く微笑んだ。その微笑はまるで悪魔のように気味の悪いものだった。だが、その気味悪さは不思議と不快感がない。紫髪の女性にはそんな何度も見たいような、見たくないような。不思議な衝動に駆られる魅力があった。




「そんな気は毛頭ないさ。ただ、挨拶だけはしたくてね」




「挨拶するのは勝手だけど、それならまず、自分から名乗りなさいよ。私たちは初対面のはずだけど」




「ウフフ……初対面ねぇ」




金髪女が微笑む。何故笑ったのだろうか、その理由はわからない。

なんだろう、悪寒が走る。というか、声に聞き覚えがある。でも、どこだっただろうか。この人達、一体何者?




「ま、次の試合になればわかる。せいぜいがんばるんだな。アタシらとヤる前に脱落するなよ。楽しみがなくなるからな」




「そっちこそ脱落しないようにね。ま、どっちにしても私が勝つけど」




「ほう、チビすけのくせにデカイ態度だな。肝が据わっているか、単にバカなだけなのか……後悔しても知らんぞ」




「コラ! メイをチビ呼ばわりするなっス! これでも可愛いんですからね! それに背が低いほうがちょこまか動けるし、なにかと重宝するっス! つーか、そっちこそ貧乳の癖に生意気っス!」




「ひ、貧乳だと……? 」




理沙と紫髪がバチバチと火花を上げる。あれ、いつのまにか悪口と悪口のオンパレードになっている?




「言うじゃないか、ボール胸女が。そんなにデカイならさぞかし、美味いミルクが飲めそうだな。観衆の前で飲んでやろうか?」




「はん、この胸はメイ専用ッス。お前なんかには1000万ガルド詰まれてもお断りッス。この味を知っていいのはメイだけッス」




「ちょ、ちょっと理沙! 大声でそういう事言わないで」




は、恥ずかしいじゃないよ、もう!ってゆーか、どうして話がそっち方面にいっちゃうの?お義父さんは顔を赤くしてるし、お義母さんもお姉ちゃん達も反応に困ってるじゃん。




「なんだ、お前たちはそういう関係だったのか? 」




「仲良しの友達ッス! 中学生の時からの食べ歩き仲間ッス。なのに、昨日はお姉さんと一緒に寝て……。ベッドは狭くて三人も寝れなかったッス。うう、アタシも一緒に寝たかったッス~~。昔は『理沙、理沙。駅向こうの洋食屋さんがとっても美味しいよ』って教えてくれて、心がすごく和んだんッス。そして、こんな世界でも出会えたし……アタシは誰が何と言おうとメイが大好きなんです。そんなメイを小さいからってバカにするのは許せないッス!!」




きゃあああああ!!

な、なに啖呵切って告白なんかしてるのよ、理沙は~。

き、気持ちは嬉しいけれど、何もこんな場所で言わなくても……。

どうしよう、穴があったら入りたい。




「私も理沙に同感だ」




そこへロランさんが私の前にやってくる。そして、何故か、頭を撫でてくれた。ノノといい、なんでみんな私の頭を撫でるんだろう。




「今の自分がいるのもメイのお陰だ。彼女がいなければ呪いで死んでいただろう。勇気も度胸もある。私は彼女を素晴らしい友人だと思っているよ」




「ロラン……」




「私も助けられちゃったからね。付き合いはまだ短いけど、それはこれから、いくらでも濃くできるって事じゃん? まだまだ知りたいこといっぱいあるし、話したいこともいっぱいあるんだよ、メイには」




ロランとミオが私を褒めてくれる。なんか、そんな風に言われるとくすぐったい。嬉しいというか、こっ恥ずかしいというか。やば、なんか体温が上がっている気がする。顔すごく赤くなってるんじゃないかな。鏡で見たらきっと真っ赤になってると思う。




「悪いけど、この子は私の自慢の妹よ。理沙っぺがいくら好きでも渡すわけにはいかないわね。赤ちゃんの時からお世話して、オムツを毎日替えてたのは私なんですからね。親は仕事ばっかでロクに帰ってこないんだから。言うなれば親同然なのよ、私は」




「お、お姉ちゃん! わ、私、もう子供じゃないから」




「はいはい。でも、あんたは今でも私のかわいい妹よ」




といって抱きしめてくる姉。同時に豊満な胸を私に押し付けてくる。

うう、私にはない豊かな感触は正直羨ましいの一言。




「ふ、愛されているな貴様は。まあいい。では、試合でな」




「アデュー★」




半ば呆れた感じで去っていく二人。彼女たちの軌跡が無くなる前にチャイムが鳴り響く。それが私たちの頭をより現実にさせた。




「まもなく試合開始です。出場選手の方はスタジアムまでお戻りください」













「さて、それではここから中盤戦です。参加試験の段階でかなりのチームがいなくなりました。クイズでのペナルティを含め、残り5割と言ったところです。はてさて、栄冠の騎士候補生として立ち上がるのは一体誰でしょうか?ますます、目が離せません!」




ワアアアアアと観衆が大歓声を上げた。

天気は変わらず晴れのままだが、少し雲がかげってきた。

アナウンス席は先ほどの二人が再び元気に喋っている。




「今現在残っているチームはわずか4組。チーム・ラーメンズ、新翼の絆、野郎だぜ、ウィザードマニアです。ジョイルさん、どう分析しますか?」




「どのチームも強力です。新翼、野郎だぜ、ウィザードは高得点でゴーレムにダメージを与えました。実力も申し分ないでしょう。だが、ゴーレムを倒すことができたのはラーメンズのみです。期待大ですね」




「なるほど!!それでは次の試合はこれだ、ゲルゲルキラー!!」




またもや大歓声が鳴り響く。お昼を食べ終えた観衆は更にグレードアップしている。応援の声も先程より大きく、それだけ試合を楽しみにし、期待している人が多いようだ。私は褒められた嬉しさよりも目の前の試合へ集中するようにスイッチを切り替えた。




左右に閉じられた扉が開かれ、そこからグニョグニョしたモンスターがたくさん出てきた。ざっと数えただけでも50~60体以上はいる。これは一体……。




「ゲルゲルキラーのルールを説明致します。今回は全員参加です。どのゲルゲルでもいいので倒してください。倒すとポイントが貰えます。ゲルゲルは種類によってポイントが違いますのでご注意。倒すのは武器でも魔法でも構いません。20分間でバトルは終了となりますが、終了時点ででポイントの多い上位三チームが決勝リーグへと進むことができます。少ない2チームが脱落という形になります。ラーメンズはクイズで全問正解したので最初からポイント100でスタートです。残りのチームは0からスタートとなります」




なるほど、さっきのポイントはそれか。先に100ポイントあるなんて余裕でいけそうね。でも、油断は禁物だわ。




「へへ、腕がなるッス。メイは体力温存で。切り開くのはアタシッス」




「うん。フォローは任せたわよ、ノノ」




「わかったわ」




「ちなみにポイントはメインスクリーンに表示されており、倒すたびに更新されます。参考にしてくださいね。それではレッツファイト!!」




ゴングが鳴り響いた。




まず、理沙が駆け出し、誰よりも早くゲルゲルの元に辿り着く。2丁あるハルフィーナをそれぞれの手に持ち攻撃するのが理沙の得意とするスタイル。理沙はあえてそうはせず、ブーメランのように斧を投げていく。素早さの低いゲル達に簡単に命中し、致命傷だ。ゲル達をどんどん倒していく。




「ヌギャアアアアアアアアア!!!」




ゲル達は死ぬと体液を撒き散らしていく。一気に倒したせいで、数多くのゲル達が体液をぶちまけた。それが広がり、うっかりした選手達が次々と足を滑らせて、そして、動けなくなっていく。ほとんどの選手が身動きが取れなくなっていた。どうやら粘着作用があるらしい。だが、あのローブ女達は例外で素早く避けてゲルを倒していく。金髪は魔法、緑はナイフのようなもので切り裂いている。一体、何者なんだろうか。




「流石、理沙ね。メイ、ゲルゲルは死ぬと体液をぶちまけるんだど、あれには粘着性があるの。一度足につくとなかなか取れないからね。滑った連中はもう攻撃できないわ」




と、ノノが補足してくれた。要するにゴキブリホイホイと同じ原理だ。

っていうか、なんか、すごい臭いがするんだけど。鼻を指でつまみ、嫌そうな顔をする。同じく鼻をつまむ私。




「うわ……なにこれ、すごく臭い。何日も掃除を放置した汚いトイレに芳香剤と消臭剤をぶち込んで更に2週間放置した感じかな? 」




「よくわからないわ。人間界の事はまだよく知らないけど、わかりたくもないわ、その状況」




ともかく、そんな感じの臭いだった。参加者たちはあまりにの臭いに気絶していく。理沙は何故か平気そうだ。よく見ると身体が薄く光っており、ハルフィーナの防御魔法で臭いを無視できているのかも。理沙は私よりも早くナイトゼナにいるので、恐らくゲルゲルの事も知っているのだ。抜かりがない。




「ポイントの加算が進みます!ラーメンズ180ポイント、新翼の絆90ポイント、野郎ぜは10ポイント、ウィザードマニア3ポイントです。ラーメンズが優勢の模様です。このまま逃げ切るか?」




私たちの出番はないかなと思っていたが、いきなり兵士達がスタジアムに出てきて、ラッパを吹いた。なに、パレードでも始まるの?




「!!!」




理沙はその場から離れた。反応の遅い他のチームが餌食になった。空から降ってきた、巨大な……いや、あまりにも巨大すぎるゲルに潰される。グランアリーナの建物の高さは49m程度だとパンフにはあった。このゲルゲルはほぼその大きさで、もう少し横に大きければ建物全体を覆いそうだ。こ、こんなゲルゲルを倒したらポイントはつくだろうけど、ただ、臭いが……。




「で、出たぁぁぁぁ!!全長50センチ近くのゲルゲルキングです。

こいつを倒せば500ポイント追加です。果たして誰が殺るのか!?」




さて、どうするべきだろうか。どうやって倒せば良いのだろうか。

いや、そもそも斬れるのだろうか。最大の難関が私たちに降りかかろうとしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る