第11話「決着、そして……」
「さあ、ここからが本番ッス!」
理沙は獲物を振り上げ、勇猛果敢にシェリルに攻め込んでいく。彼女の武器は柄の長い斧を振り回している。斧は女子には不向きな武器に思えるが、それを微塵も感じさせず、シェリルに向かって振り落としていく。シェリルは上手く回避しつつ、相手の懐に入る隙を探していた。もしくは相手が疲弊してから隙を狙う気なのかもしれない。
「フン、なかなかやるな。だが、ミリィを殺した恨み……晴らさせてもらう」
シェリルが念を込めると、空からドス黒い霧みたいな物が彼女の剣に集まっていく。黒い不気味な風が辺りに立ち込め、空はだんだんと雲を厚くしていく。遠巻きに見ているこちらを見ている人々が固唾を飲んで見守っていた。ミオさん、ロランは既に街の人たちにより担架に乗せられた。
私も戦えればいいんだけど、思ったより傷が深刻だ。背中が一番痛いけど、そこから全身に痛みが走る。動かなければ大丈夫だけど……正直、息をするのもしんどい。理沙の助けになりたいが、今は足手まといだ。
「おっと、そろそろ必殺技で来る気ッスね」
「安心しろ、メイと貴様、二人まとめて殺してやる。友達なんだろう?
一緒に天国へ送ってやろう」
「ハン、殺されてたまるかッス!」
シェリルはその言葉に返答せず、ただじっと剣に黒い霧を集めている。
きっとここを狙えばチャンスのはずだ。だが、そんな私の考えとは裏腹に理沙はシェリルに背を向けて、私の所へやってくる。
「……この世界に宿りし精霊達よ、我に癒しの力を」
何か小さく呟きながら、人差し指と中指の両方で自分の唇をなぞる。
そして、私の前に来て、しゃがみ、目線を私に合わせた。
「何してるの、理沙。今ならチャンスだよ。早く……」
「メイ、少しじっとするっス」
「え……」
そこで私はキスされた。
突然の事に私の心臓は跳ね上がる。
暖かくて優しいぬくもりと気持ちよさ。
互の息と匂いが混ざり合い、絡み合う。
何だか、幸せって感じがする、不思議な気持ち。
私たちはたっぷりとくちづけを交わした。
「ふふ、メイとキスしたの、久しぶりっス。最後にしたのは受験勉強シーズンに入る前でしたね」
「う、うん。理沙、私、すっごく嬉しい。ずっと寂しかったから……」
「まだ泣いちゃだめッス。感動の再会と喜びはあいつを倒してからッス」
私の頭を優しく撫でる理沙。
涙を指の腹ですくってくれる理沙。
嬉しくて大泣きしそうだけど、ここで泣いているわけにはいかない。
シェリルを倒さなきゃ私達に明日はない。
「別れの挨拶は済んだか?キサマらが待ってくれたお陰で剣に強い力が宿った。あの方の闇の力がたっぷりと凝縮されたこの世で最高の剣だ!!」
「メイ、もう立てるッスか?」
「う、うん。あれ?何だか身体が軽いや。どうしたんだろ。
背中も痛くないし……」
「さっきのキスは治療魔法の簡易版ッス。大掛かりな物だと唱える時間が長いんですが、簡易版なら短く済むッス」
「これなら大丈夫……戦える。セグンダディオ、私に力を」
”うむ……。ハルフィーナ、久しいな。
「え?」
”あなた、お元気そうで何よりです”
何か、セグンダディオと理沙の斧が会話している。
どういうこと?
「メイ、アタシの武器・ハルフィーナはセグンダディオの奥さんッス。二人は夫婦なんスよ」
「ええええ? そうだったんだ……っていうか理沙にも聞こえるのね」
私の尋ねに頷く理沙。どうやらセグンダディオ達の会話は四英雄の武器の所持者なら聞こえるらしい。けれど、シェリルや街の人達など外部の人には聞こえないようだ。
「さあ、こちらの力を奴らに見せつけてやりましょうッス。いち、にの、さんで行くッス!」
「わかった」
私は深呼吸する。
そして、理沙の動きに身体を合わせる。
「いち、にの……」
「さん!」
私達は駆け出し、まっすぐシェリルに向かう。
だが、シェリルは微動だにせず静止したままだ。
ニヤリと笑みを浮かべながら。
「考えなしで突っ込むとは愚かな……闇の剣がどれほどの威力か、思い知れ!」
シェリルが剣を振るうと、黒い雷が理沙に襲いかかる。
だが、それを理沙は斧を一振り振しただけで雷を消滅させた。
正確にはかき消したという表現が正しいだろうか。
これには流石のシェリルも動揺を隠せない。
「な、なんだと!? ど、どういうことだ! 何故、闇の剣が……」
「無知なのはそっちッス! ハルフィーナは闇の女王でもあるんでね。暗黒の雷なんか効かないッス!!」
「な、何だと!? ハルフィーナというと、貴様も四英雄の武器を……」
「今更遅いわよ!! やああああああああああああああ!!!」
動揺するシェリルに私は跳躍して、一撃を放つ。
が、シェリルはそれを剣で受け止める。
すさまじい火花が光り合い、鍔迫り合いとなる。
ここから先は押し合いだ。
力と力の比べ合い。
でも、本当の狙いはここじゃない。
「そりゃあああああああああああッス!」
「なっ!!」
理沙は素早くシェリルの背後に回り、ガラ空きの背中を斧で切り裂く。
そこで彼女の力が一気に失われ、倒れようとするのを私は見逃さない。
「やああああああああああああ!!」
私はシェリルの腹を掻っ捌く。
それから、顔から胴体、股まで一直線に切り裂く。
血飛沫が私を汚し、赤黒く染めていく。
とどめに彼女の心臓をセグンダディオで貫通させた。
時代劇風に言えば、心の臓を一突きである。
「お、おのれ……き、貴様ら。よ、よくもこの私を……」
「アタシの友達をいじめた恨み、思い知るッス!!」
斧がシェリルの首を攫った。
「やったああああああ!!」
「あのシェリルを少女たちが倒したぞ!!」
「これでナイトゼナも平和になるぜ!」
「おっしゃあああ!!今日は飲むぞー!」
街の人たちは歓喜した。
誰もが拍手を送り、笑い、叫んだ。
その笑顔に私は胸のつっかえが無くなった事に気づく。
「メイ、お疲れ様ッス。よく頑張たッス」
「理沙のお陰だよ。そして、セグンダディオとハルフィーナ。
二人のおかげだね」
”我々はただ力を与えただけに過ぎん。契約者の頑張りがあったからこそだ”
”お二人共息がぴったりでした。美しき友情の勝利ですね”
セグンダディオ、ハルフィーナ。
二人の言葉に少し頬が緩んだ。
「お嬢さん達、よくやってくれたな。報酬といってはなんだが、ウチに美味い料理がある。ベッドもあるし、そこで休んでくれて構わないぞ」
と、男性が現れた。
40代半ばだろうか、ヒゲを蓄えたダンディなオジさんだ。
体付きもよく、何か武術をしているのかもしれない。
「あなたは?」
「おっと、失礼。俺はボルドーだ。この街の副市長をしている。妻にはもう話してある。ついてきてくれ」
「いやー助かったッス。昨日から何も食べてないんで、腹の虫が減りっぱなしッス。あ、タオルで汚れを拭いておくッス」
「う、うん」
理沙がタオルで丁寧に血飛沫を拭いてくれる。
ミオさんとロランの事が気になるけど、今は後にしよう。
食べ終わってから様子でも見に行こうかな。
私もさっきの戦闘でおなか空いたし。
何より身体が疲れているのもあり、一刻も早く休みたい。
今はお言葉に甘えるとしよう。
「……」
そっと尻目に見ると、シェリルの死体があった。
真っ二つにされた胴体、転がる首……。
辺りに撒き散らされた、汚れた血の池。
その首は虚ろな表情をしており、瞳は絶望に染まっていた。
彼女は何故悪人になったのか、どうしてこんな凄惨な人生だったのか。
色々と思い浮かぶが、もし躊躇すれば私も理沙も殺されていただろう。
始めて人を殺めたというのに、私の心には悲しみの感情が一欠片も存在しなかった。
だが、何とも言えない切ない気持ちがあった。
彼女はどこか他人という気がしなかったのだが。
それは私の勘違いなのだろうか?
だが、来世で彼女に出会えたら……私はきっと友達になろう。
神様、どうか彼女を成仏させてあげてください。
地獄じゃなくて天国へ逝かせてあげてください。
心の中でそう祈りを捧げ、私はその場を後にした。
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