第10話現実

「ああ、ぼくだよ。元気にしてるかね?」

「元気ですよ」

「ぼくが作家ってこと知ってる?」

「またバカなこといってるわ」

「そうじゃないってさ。ほんとうに作家やってるのさ」

「嘘ばっかり」

「ほんとほんと。ある雑誌社からね、依頼されてるんだよ。グッと感動的な小説を頼まれてるの」

「なんでェ。そんなんおかしいわ。全然わけのわからん人に小説書かすなんて。小説なんて書いたことあるの?」

「ない」

「ほうらみてん。安藤くんは嘘つきゆうて評判になるのもしかたがないで」

「バカいうな。嘘つきであるものか。嘘というなら、電話でもして訊いてみたらどうだ」

「なんでわたしが電話しなあかんの?」

「嘘だというからさ」

「でもそんなこと誰も信じひんよ」

「ああ、わかっているよ。どいつもこいつも低ノーなブタばかりだしね。信じないやつは信じなくていいよ。君もブタのひとりだって気づくのが遅すぎた。これでさよならだな」

 ぼくはここで受話器を置いたが、10分間もしくは20分間、電話が鳴るのを待っていた。いつまでたっても鳴り出す様子がないのだ。ぼくはあきらめて机にへばりついた。肩肘ついて、世をはかなんだ。

 

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