第10話現実
「ああ、ぼくだよ。元気にしてるかね?」
「元気ですよ」
「ぼくが作家ってこと知ってる?」
「またバカなこといってるわ」
「そうじゃないってさ。ほんとうに作家やってるのさ」
「嘘ばっかり」
「ほんとほんと。ある雑誌社からね、依頼されてるんだよ。グッと感動的な小説を頼まれてるの」
「なんでェ。そんなんおかしいわ。全然わけのわからん人に小説書かすなんて。小説なんて書いたことあるの?」
「ない」
「ほうらみてん。安藤くんは嘘つきゆうて評判になるのもしかたがないで」
「バカいうな。嘘つきであるものか。嘘というなら、電話でもして訊いてみたらどうだ」
「なんでわたしが電話しなあかんの?」
「嘘だというからさ」
「でもそんなこと誰も信じひんよ」
「ああ、わかっているよ。どいつもこいつも低ノーなブタばかりだしね。信じないやつは信じなくていいよ。君もブタのひとりだって気づくのが遅すぎた。これでさよならだな」
ぼくはここで受話器を置いたが、10分間もしくは20分間、電話が鳴るのを待っていた。いつまでたっても鳴り出す様子がないのだ。ぼくはあきらめて机にへばりついた。肩肘ついて、世をはかなんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます