第9話現実との狭間で

 ホテルを出た瞬間、ぼくは授賞式を断念した。ここに来るべき人はこのぼくでない、と判明したからだ。そうなのだ。ぼくはここにいるのだ。白紙の原稿を前に。

 スピーチをあれこれ考えるのはもうやめだ。兎に角、今をなんとかしなくてはならない。

 2ヶ月間のぼくの毎日はこんな妄想に苛まれていた。食べたり風呂に入ったりする以外の自分の時間をすべてこの妄想につぎ込んだ。全くバカなことをしていた。現在進行形に立ち返るべきだ。INGがぼくのすべてなのだ。ちょっと前にぼくは彼女に電話をかけた。その一部始終はこうだ。

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