第8話会場にて

 会場の会場の前まで来るとすでに受け付けができあがっていた。そこには2人の女の人がいて、こまめに机の上を整理でもしているようだった。2人の胸のところには、リボンが吊るされていて、太田道子、山田加津子という名が記されていた。ぼくは2人の前まで行くと、なんとか声をかけてみようとしたが、2人はそんなぼくに気づかないようだった。ぼくがあのう、というと、ハッという声を太田道子の方が発したがそれだけだった。

 もう一度ぼくはあのう、とやったがその時には、向こうの方から話しかけてきた。

「招待状をお持ちですか?」

「いえ、もってないのですが」

「それなら出席できませんよ。すみませんけど、それがなければ出席できないんですよ」

ぼくはそうですか、と言いながらそれでも立ち去らないでいると、横にいた山田加津子の方が声をかけてきた。

「そうしたんですか?」

 太田がそれに応えた。

「この方、招待状を持ってらっしゃらないんですって。どうしようもないですよね」

「それはダメね。あなたはどうされたんですか? どこかで授賞式をお聞きになって?」

「いえ、そういう訳じゃないんですが……」

「でもこの人、とても出席したそうね」

 山田という名の女の人がそういうと、そうですね、と太田という女の人が応えた。

「なんとかなんないかしら」

「それは無理ですね。今日は報道関係者もたくさん出席するって聞かされているし、それに出席率も良いみたいですから、ちょっと無理じゃないかしら」

「でも残念ね、鬼才に会えなくて」

山田という人は、ぼくの方を見てニッコリと笑ってみせた。ぼくはいかにも残念だとばかりに頭を垂れて、受付を後にした。2人の会話を耳にしながら。

「ちょっとイカしてると思わない?」

「イヤだ山田さん、あんな若い人が好みなんですか?」

「かわいいじゃない」

「じゃあ、捕まえてきて、会場に入れてあげる?」

 2人の笑い声が薄く聞こえてきた。それから、ちょっと、ちょっと、という女の声が聞こえた。振り返ってみると片一方の手でおいでおいでと手を振っているのが見えた。ぼくは踵を返して近づいた。

「あのね、6時にここにいらっしゃい。そうね、10分過ぎくらいがいいかな。入れてあげるから。内緒でね。後ろの方になるけどいいでしょう?」

 ぼくは声を大きくして、嬉しくてしかたがない、とばかりにありがとう、きっと来ます、とだ言ってホテルを後にした。


 

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