第5話完璧な空想3.

 ぼくはアリの這い出る隙間もないくらいホテル内を探してまわった。その内に

何度も同じ顔を見ることになった。初めの内は、ぼくに対して全く無関心だった者が、次第にぼくの顔を見るたびに首をかしげ始めた。ようするにヤツは何者だ、というわけである。といっても、わざわざぼくは受賞者なのです、といってまわるわけにはいかない。それにそういったところで、ジーンズでは信用されないだろう。

 ぼくは同じ顔に出くわす度に、視線を避けたり、知らぬふりをしようと努めた。守衛は彼らの内で一番やっかいだった。彼らは同じところに立っていたり、ぼくと同じようにホテル内でウロついているので、どうしても何度も出くわさずにおれなかった。その中の一人、丸々と太った守衛が、そんなぼくに声を掛けたのだ。

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