第3話完璧な空想1.

 ぼくの顔はまだ誰も知らない。写真を送れ、といってきたのをぼくは拒否したのだ。でもそれは仕方がないことだ。作家らしい写真など、アルバムのどこを探してもみあたらない。ベロを出したり、唇を尖らせたりした写真ならイヤというほどある。鼻にタバコを突っ込んだ写真など送れようもない。まさか生まれたばかりの写真を送るバカはいないだろう。これでぼくの不安はいっそう高まった。ひなが一日そんなことを考えていると、生きている心地がしなかった。 夜、眠っている時でも夢の中で昼間の続きがやって来た。イヤな夢にうなされて、ガバッとベッドから飛び起きいるのだ。汗をベットリとかいた自分を想像するだけで何とも情けない。真っ暗な部屋の中で、パッと目を開ける瞬間のイヤなこと。「すみません」とぼくはいっているのだが、それすら聞き入れられない。誰も彼も授賞式の準備に忙しいのだ。

 

 

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