死神さんにまた会いました
目が覚めたら、あんな路地裏に落ちてたなんて誰が思うのだろう。一度は死した魂が地上に行ける唯一で一回限りの方法。それは昇華をしないこと。本当は危険なんだけどね。でも、今回私が昇華しなかったのにはわけがあるのだけど……にしても、落ちた場所が路地裏って言うのはとんだ大馬鹿だと思う。あの真っ黒い死神さん(?)に見つけて貰わなかったら多分一生見つからなかった可能性がある。ほんとう、ありがたやありがたや。
さて、状況整理しよう。あの死神さんに連れてきたもらった協会は私の想像以上に大きかった。こんな大きなところ、生前は村の神殿くらいしか入ったことがないからちょっと怖いんだけど……。でも、よくよく見ると私と同じ格好をした人達――すなわち昇華しきれなかった魂達がいっぱい居る。え、こんなに昇華してないの!? 歳は様々、私くらいの歳の子もいれば、お年寄りだっている。まだ学校に行くような歳の子だっている。皆が皆、死して未練なく天に還ることはできない。
「ええっと」
さて、問題は受付はどこかということ。さっき、死神さんに大丈夫です! とか言っちゃったけど実は私方向音痴なのです。だって、協会の中がこんなに広いとは思わなかったんだもん! 見た目広いけど中身そうでもないってことよくあるじゃない? 実際、私の村はそうだった。あの神殿は外見は大きくて豪華に見えるけど、中身はそうでもなかった!
「あ、こっちかな」
また迷子になりそうな気がするけど、受付の字が見えたからそこまで行ってみる。うう、結構並んでるよう……確か、生前聞いたときは受付で名前と依頼を言えばいいって聞いた。受付数は十カ所。多いなぁ、と思うもこの数の昇華していない魂を相手にするなら数は多いことに限るかもしれない。そして、受付の人達はまあ手慣れてて早い早い。私、さっき最後部に並んでまだまだ時間かかりそうとか思っていたけどもう目の前に受付の方がいらっしゃいます。早くないですか?
「こんにちは、お名前とご依頼をどうぞ」
「あ、はい!
目の前の優しそうな女性の受付の方に名前と依頼を言えば、故郷はどこですか? と問われる。そうだ、故郷の名前を言わないと連れて行ってもらえないんだった。
「えっと、カーフィエルトです」
「……もう一度、お願いします」
受付の方の笑顔が引きつった気がする。私の故郷、確かに辺境地で遠いけど都会の人でも聞いたことある名前だと思うんだけど……あれ、ひょっとして地図に載ってないところだったりする……!?
「カーフィエルトです、あの、まさか地図に載ってないとか……?」
「いえ、地図には載ってます。私もあの神殿には足を運ばせた事がありますから場所は分かります」
あら、受付の方、私の故郷に来たことあったんだ。と、いってもあの神殿には何も面白いものはないけども。外見が豪華だからかな?
「ただ、ですね」
「はい」
「あの場所、とてつもなく辺境すぎて……並の還魂士では依頼を出せないのです」
「……あの」
ナチュラルにこの依頼は難しいと言われた。た、確かにあの場所はめちゃくちゃ辺境にあるけど……王都からは少なくと5ヶ月はかかるし、危険な森は3つ通らなきゃいけな……あ、これは難しい。でも、その前に。
「還魂士って、何ですか?」
「はい?」
受付の方がきょとんとした顔を向け……すぐに笑顔に戻った。ああ、本当何も知らない小娘で申し訳ないです……。何せ、カーフィエルトはかなり閉鎖的な村だったこともあって私、あの村の外に殆ど出たことなかったから……。生前にもっと勉強と知識を詰め込んでおけばよかったと大分後悔する。
「還魂士とは、その名の通り魂を還す者です。ご依頼者は皆未練を持つ昇華しなかった魂の方、皆様の護衛をしながら目的地に向かうのでそれ相応の実力が必要なのです」
「……え、普通にたどり着けないところじゃないですよ?」
「ウィーリス様は、もしや……」
言われた意味を全く理解していなかった私に受付員さんはまず、と丁寧な説明を切り出してくれた。
「あなた方は実体を持っていません、今こうして私たちと話したり生きている人達が認識できるのは仮の器に入っているからです」
「仮の器?」
「はい、この仮の器は生前と比べて脆く、少しでも傷がつけば崩れます」
「え……」
そ、それは初耳だ。生前と何ら変わりのない姿だったから何も変わってないと思っていたけど実は魂に結構な負担をかけているらしい。魂は器がないと壊れやすい、簡単に言うなら皮を剝いたリンゴが酸化して黄色になるのと同じ現象だという。リンゴの場合は崩れないけど、味が落ちるだけなんだけど。それでも、質が落ちることには変わりはない。
「この国には魂を糧にして成長する化物が存在します――彼らに食されたら最後、魂は天に還ることはありません」
「!?」
「話を戻しますが、ウィーリス様の目指すカーフィエルトは少し前から例年以上の化物の発見数を報告されております」
それで、言うのを渋っていたんだ。無知な私はそんなこと全く知らなかったから。魂を食らう存在は、魂自体を消してしまうから。そういうことだったのかと理解した途端、何故私の住んでいた地域がそんなことにと疑問を抱かざるを得ない。だって、私が死んだのは少なくともここ半年前のことであって……あの時は、そんな不審な影を見た記憶がない。
「なんで、そんなことに……」
「私共も調査を進めておりますが、カーフィエルトの近隣は森が多い上に道が整備されていなかったり、またカーフィエルトまでの経路が確立されていなかったりと環境面において難題に直面しておりまして……」
「ゴメンナサイ、それはうちの長様が悪いです」
長様、外部の人が立ち入るの嫌っていたからなぁ。別に外部の人が来てもそんな害になることなんて一切なかったのに。
「いえいえ、私共がカーフィエルト近隣の依頼が滅多になかったため整備環境を怠っていたのが悪いのです」
申し訳なさそうに謝罪する受付員さん。そんな謝らないで下さい……! とりあえず、これでハッキリしたのがカーフィエルトがとんでもない辺境地に存在して尚且つ首都からの行く手段がほぼないということが分かった。うん、一個言わせて……そんなド辺境の村に行こうとして本当ゴメンナサイ。もっと地理を勉強しておけばよかったです……!! 後、整備してくれなかった長様も悪いと思います!!
「さてカーフィエルト行きとなると、現在手の空いている上位還魂士は……」
「その依頼、俺が引き受ける」
「あ、は……!?」
受付員さんが書類をバサバサひっくり返しているところに現れたのは、さっきもあった人だった。
「死神さん!?」
「俺はお前に名前を教えたはずなんだがな」
呆れ気味に返事を貰う、ええと名前何だったかな……。受付員さんは一瞬固まっていたけどすぐに意識を引き戻したらしい。
「セルクト特務隊員!?」
「上……っつっても特務隊長からの指示だけどな。その依頼は俺、藍翔・セルクトが引き受けることになった。正式な依頼書を出して欲しい」
「は、はい!」
受付員さんがすごい勢いで依頼書なるものを作成している。えっと、どういうこと? カーフィエルトまでいけるってことでいいんだろうけど……依頼を引き受けてくれるのがこの死神さんで……。
「どうした」
「あ、いえ。死神さんが私を依頼の場所まで連れて行ってくれるんですよね?」
「そうなるな」
「お強いんですか?」
「……さあ、どうだろうな」
溜息をつきながら、そんな発言はとてつもなく不安になるんですけど……そう思っていれば書類作りに没頭していた受付員さんが「大丈夫です!」と笑顔でとんでもないことを言ってくれた。
「セルクト特務隊員は還魂士の中でも特殊な位置にいる還魂士の方でその実力は全協会内でもトップクラスですから心配入りませんよ!」
「はい?」
なんか、とんでもない人が依頼を引き受けてくれたって事ですかね!?
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