第32話 リフレイン
未菜の頭の中では、今日の出来事がリフレインしている。
随分と長い間、外界からの情報を遮断して、頭の中で起こっている事態に収拾を付けるために必死だった。
新井との会話の中で、胸騒ぎがだんだんと広がって行き、胸がぐっと抑えつけられ、頭の中に霧がかかったような感覚に襲われた。
(仕事……父の仕事は……確か、貿易関係だったと……」
(貿易ですか、それなら海外へのご出張も多いでしょうね)
(そ、そうなんです、遠い外国へ……行ってしまったと……でも、この前、突然現れて……)
(サプライズですか……。じゃあ、この辺で、そろそろ行かないといけないので……)
(あ、はい、私も行かなければ……じゃあ、また……」
未菜は、自分に対して違和感を感じ続けていた。新井から、父親についての質問をされても、何一つ満足に答えられない自分に気が付いてしまったからだ。
(そう言えば、私はお父さんが現れてから、何一つ質問をしていない……どうして急に現れたのか、いつまで一緒にいられるのか、お母さんは元気なのか……そうだ、それから、お母さんに電話をしたんだった。お母さんは、すぐに電話に出て……)
「お母さん……元気にしている?」
「どうしたの急に……もちろん元気いっぱいよ。何か辛い事でもあったの?」
「そんな事ないよ、元気だよ、それより、お父さんの事なんだけど……」
「お父さん? ああ、もうすぐね、時間が経つのは本当に早いわぁ、いつの間にか、そんな時期になっていたのね」
「お父さんの仕事って貿易関係だったよね」
「貿易? そうね、貿易関係と言ってもいいかもね。父さんはセレクトショップの購買担当で、良く外国に買い付けに行っていたから……未菜はあんまり覚えていないでしょうけど、たくさんお土産を買って来てくれていたのよ」
「おみやげ?」
「そう、あなたが肌身離さず持っていた、熊のぬいぐるみとか……あれって何処へやってしまったのかしらね?」
「今でも大切に持っているよ。だって、私の大切な……」
そう、未菜は思い出した。
「私の大切な、お父さんの形見だから……」
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