5-3

「陽一君」


 学園を出て、下りの坂道を歩いている途中、永瀬から不意に声がかかった。


「なんだ?」

「いったん、夜坂神社へ向かいましょう」

「どうしてだ。千歳稲荷に急がなくていいのか?」

「これから向かう先は、呪いが渦巻く危険地帯です。まずは陽一君にも、禊をしてもらいます」

「禊?」

「水垢離のことです。身を清めて穢れを落とし、陽一君にも正装に着替えてもらいます」

「え、俺も?」

「はい。少しでも身が穢れていると、気というものは過敏に反応を示します。星川会長の千里眼を弾くほど練り上げられた妖気ですから、現場はさらに深刻な状態でしょう。例えるなら、火薬庫にライターの火を付けたまま入るようなものです」


 あ、危ねえ……そんなヤバイ所なのか。


「どうしました? 怖気づきましたか」


 一瞬の沈黙で、そう捉えられてしまったのだろう。

 永瀬は口端に笑みを浮かべながら、意地悪に聞いてきた。


「そ、そんなことはないよ。さ、さあ急ごう」


 虚勢だと、自分でも分かりきっている。

 けれど、決意した気持ちを、その勢いを、こんな序幕で削ぐわけにはいかない。

 場の空気や気持ちというのは、どんな状況場合でも、結果に影響しかねない重要なファクターだからだ。


 けれど、弱気な心を悟られまいとして張った虚勢なんて、やはり他人にはもろ分かりなようで……。


「無理しちゃって」


 なんて永瀬の呟きが、耳に届いてきた。

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