B

 アールはオリヴィアにとって、とても大切なひとだ。アールとオリヴィアは子供の頃からの付き合いでよく遊んだ。その場面が夢の中でも現れるほどに、毎日のようにアールと逢っていたオリヴィア。お互いのことは、誰よりも理解していたように思う。オリヴィアから見たアールは優しいひとで、けれども、メンタル面が少し弱かった。両親や先生から叱られたその日は、一日中、暗い表情をしていたアール。そんな表情を見たくなくて、オリヴィアはアールを笑顔にさせようと笑いかけたり、驚かしたり、いろいろなことをしてきた。そんなアールを恋愛対象として見たのは幼い頃からずっとオリヴィアの傍にいた愛犬が死んだとき、アールが一緒に泣いてくれたことが切っ掛けだった。ちょっと頼りないところもあるけれど、けれども、アールは誰よりも優しかった。そのことをオリヴィアは誰よりも知っている。アールの優しさにオリヴィアは惹かれ、やがて二人は付き合うことになった。

 そんなアールは仕事で何かあったのか疲れた顔をしていた。オリヴィアは友人を集めて予定になかったパーティを急遽開き、そして、いまに至る。アールの自宅の庭で開かれたパーティには、十人もの友人が集まってくれた。しかし、みんなが集まっても、アールの笑顔には僅かな陰りがあったことをオリヴィアは見逃さない。そこでオリヴィアはアールの友人であるエドガーに、ある話をする。エドガーはオリヴィアの話を聞いて、口元に笑みを浮かべた。

「あいつは幸せものだ」

 弾んだ声で、エドガーが言う。「こんなにも想ってくれる彼女がいるんだから」

 アールに笑顔になってもらおうと、エドガーとオリヴィアはこれからの話をする。

 翌日、オリヴィアは仕事を早めに切り上げて自宅に戻る。そこから昨日の打ち合わせ通り、車で迎えに来てくれたエドガーにアールの自宅まで送ってもらう。コーラルゲーブルスの通りを走っていると、数人の警備員を見掛けた。いま、コーラルゲーブルスでは、盗難、発砲事件が相次いで起きている為、巡廻しているのだろう。

 気付けば、アールの自宅前に辿り着いていた。エドガーに礼を言って、車を降りるためにドアを開ける。

「成功を祈る」

 エドガーの言葉に頷き、オリヴィアは彼と別れた。アールから貰った合鍵を使って、自宅にはいる。盗難事件が起きていることを気に掛けたオリヴィアはしっかりと鍵を掛ける。鍵を開けるのはエンジン音が聞こえてからでも間に合うと思った。オリヴィアは、エドガーと話して決めていた案を実行に移しながら、未来を想像していた。アールの驚く顔を想像して、オリヴィアの口元は綻ぶ。

 暗い顔なんてしてほしくない、オリヴィアにとってアールは大切なひとで――駐車場から、エンジンの音が聞こえた。アールが帰ってきたことを察知したオリヴィアはすぐさま玄関に走って、扉の鍵を開ける。そう、オリヴィアにとってアールは大切なひとで――誰よりも愛したひとだ。オリヴィアは口元に笑みを浮かべながら、クローゼットの中に身をおさめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Who shoot the……? 麻倉 ミツル @asakura214

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る