第2話【遭遇】

「さあ琉晴よ、転校生との関係についてインタビューに答えてもらおうか」


 なんとか教室に辿り着き席に着いた琉晴に何者かがマスコミ根性全開でで寄ってきた。


櫂人かいと…新聞部はゴシップ的なのは禁止だろ」


 彼は高崎櫂人たかさき かいと

 琉晴のクラスメートにして悪友で、黒須学園の新聞部員だ。


「これはゴシップではないだろう?それともゴシップな真相でもあるというのか?」


「ないよ…なんせ今日の会ったばっかりなんだからさ」


「やはり、そんなところか」


 櫂人は一気に興味を無くした様子で琉晴の前の席に背もたれ側を向き座る。

 実はそこが彼の席でなのである。


「お前の妹達に事前に聞いていた通りだ」


「アイツらに聞いてたのかよ…」


「ああ、晴那に至っては『彼女とか絶対あり得ない、どうせ道を聞かれただけ。しかも会話すらままならなかったはず』と言っていたぞ」


「ぐぬぬ…その通りだけど…」


 琉晴はその場に居たのではないかと思うくらいに的確な予想にぐうの音も出なかった。

 晴那はそう言う所は鋭いのであった。


「傷心のお前に良いニュースがある。聞きたいか?」


「良いニュースとか言って、しょーもないことだろ?」


 琉晴は櫂人の日頃の行いを重々承知だった。

 だからこんなに勿体ぶって言った時は大抵大したことではないと確信していた。


「秋月綾歌はうちのクラスに来る。オフレコの段階だから誰にも言うなよ」


「は!?」


 そう確信していたはずだったが、予想以上に大した事で琉晴は驚きを隠せなかった。


「どうせ嘘だろ?」


「いや、俺自身が職員室に潜入して仕入れた情報だ。ほぼ間違いない。」


「流石、ニンジャキャスター…」


 櫂人の校内での二つ名『ニンジャキャスター』。

 どんなところにも潜入して、情報を取ってくる所から命名されたらしい。ダサいと思われているが、本人は結構気に入っているらしい。


「ついでに不確定だが、専門家によると彼女のアレはEカップ以上との事だ」


「そんな事まで…」


「琉晴も気になっていただろ?」


「一応、俺も男だからな…月並みには」


「ちなみにこれは全校の男には伝えた。この功績は称えられていいと思わんか?」


 琉晴は本当にマスコミ根性満々のヤツだと呆れていたが、内心良い仕事をしたと思ってしまった。彼もやはり男ということなのだろう。


「そろそろ朝のHR《ホームルーム》が始まる。俺の情報が正しいと証明されるさ」


 櫂人がそう言った後教室に担任が入って来て、生徒を席に着かせる。

 そして、始業の挨拶をし、HR《ホームルーム》が始まった。

 HR自体は連絡事項を確認するだけで、すぐに終わった。


「あと、最後に一つ大事な連絡がある。お前ら絶対に騒ぐなよ。絶対だぞ」


 担任は振りかと思うくらいに念押ししてきた。

 これでは騒げと言っているようなものだ。


「転校生がうちのクラスに来ることになった。入って来てくれ。」


 この時点で男子はざわざわしてきた。

 なんせ転校生と言えば噂の彼女しかいないからだ。


「秋月綾歌です。宜しくお願いします。」


「うおぉぉぉぉぉっ!」


「騒ぐなと言っただろ!」


 そして、案の定その噂の彼女が扉を開け入って来た時に男達の興奮のピークに達した。担任は呆れながらも、男達を注意し静める。


「だろ?」


 櫂人はしたり顔で琉晴の方を向いた。

 琉晴はその顔が妙に腹が立ち、強制的に前を向かせた。


「えー、席は剣崎の右隣な」


「うぇっ!?」


 しかし、その後琉晴は衝撃的なことを告げられ思わず変な声を出してしまった。

 そして男どもの視線が一気に注がれる。一部殺気が混ざっているようにも感じた。

 そんなことにも気にせず綾歌は颯爽と琉晴の隣にやって来た。


「宜しくね」


「は、はい…」


 思わぬ再開に琉晴はまた緊張していた。


「どうした?二回目だろ?」


 櫂人は目線だけを送りそんなことを言ってきた。

 琉晴はなぜお前は余裕なんだと言う思いを乗せ櫂人を睨んだ。


「では、HRを終わる」


 担任はざわざわした教室を足早に去って行った。


「秋月さん、俺は高崎櫂人だ。宜しく頼む。」


「高崎くんね、宜しく」


「ついでに俺は新聞部だ、学園について何か困ったことがあれば俺に聞いてくれ。まあコイツも何かしら役には立つはずだ、コキ使ってやればいい。」


 櫂人は琉晴を指差し勝手な事を宣う。

 しかも琉晴はついでのようだ。


「コイツ呼ばわりかよ…」


 琉晴は不服と言った様子だが、先程の不甲斐なさを思い出し言い返すことは出来なかった。


「うん、二人とも宜しく」


 綾歌はそんなやり取りにニコリと笑ってみせる。

 琉晴はそんな綾歌に同年代のはずなのになんでこんなに余裕があるのかと思わざるを得なかった。



 ◆◆◆◆◆◆


 その後はつつがなく午前の授業が終わり、昼休みとなった。

 休み時間には他クラスから綾歌見たさに野次馬が湧くほどだった。

 その度に隣にいる琉晴にはただならぬ視線が突き刺さる。

 現に今も教室の外からその視線が投げ掛けられている。


「なあ、櫂人席変わらないか?」


「喜んでと言いたいが俺も嫌だ。野郎に見られたい趣味はない。」


「役得なのか、貧乏くじなのか…」


 話題の本人はクラスからの囲み取材が行われていた。

『どこから来たの?』とか『部活は何しているの』とか

 ありきたりなものばかりだ。


「琉晴、秋月綾歌のデータが揃って来たぞ」


「流石だな…」


 櫂人も混ざって取材してきたようだ。流石は新聞部。


「東京から来て、部活はやっていないが体力には自信あり。好物はトマト、苦手な物はニンニクらしいが一応食べることはできるらしい。好きな色は赤。社会人の兄がいる。だそうだ」


「なるほどなー、で何か特ダネはあったのか?」


「ないな。なかなかガードは堅いらしい…ふふ、たぎるぞ」


 櫂人は取材対象が難しいほど燃えるタイプだ。どこまでもマスコミ根性満々なのである。



 ◆◆◆◆◆◆◆



 そんな喧騒な昼休みも終わり、午後の授業も終わりを迎えた。

 長い一日が終わった。

 生徒は皆そう思うのだが、琉晴は今日ほど長い一日はないと思っている。


「琉晴、今日はシスターズは部活か?」


「ああ、二人ともそうだよ」


 琉晴の妹達はそれぞれ部活に属している。

 晴那は硬式テニス、暁は美術部。

 琉晴にとって別々の部に入ったのは意外だったが、妥当なところに行ったなと思っていた。


「では今日も今日とて家庭科部だな」


「ああ、楽しい楽しい家事祭だよ」


 琉晴は惹かれる部もなく、両親のいないときの家事もあることから部活には入っていない。


「そう言えば、秋月さん早く帰ったな」


 琉晴は空席となった綾歌の席を見て呟いた。


「ああ、言い忘れたが彼女は今独り暮らしらしい。理由は濁されたがな」


「高校生にして独り暮らしか…大変なんだな」


「琉晴も人の事を言えないだろう」


「俺は妹もいるからな。一人は戦力にならないけど…」


 確かに家の事をすることは独り暮らしと変わらないかもしれないが、誰かが側にいると言うのは琉晴にとって大きなものだった。


「そう言うものか、一人っ子の俺には解らんな」


「櫂人はいない方が性に合ってるだろ?」


「ふ、違いない」


「と言うか良いのかここで道草食って、新聞部大変じゃないのか?」


「そうだったな。さらばだ琉晴」


 櫂人は颯爽と痛い台詞と共に去って行った。




 ◆◆◆◆◆



「あれ?迷ったかな…」


 学園を出て、琉晴は新しい道を開拓しようとしていた。

 時々、意外な近道を発見したりするが今日はやけに迷ってしまっていた。


「なんか段々薄暗くなってきたな…」


 まだ日は沈んでいないのに、琉晴が入った道は日当たりが悪いのか日が射し込まず薄暗くなっていた。


「戻るか…」


 琉晴は不気味に思い、道を引き返すことにした。


 ガラガラガランッ


「っ!!」


 琉晴が戻るために踵を返した瞬間に大きな音がした。

 それに思わず飛び上がってしまった。

 そして、後ろからの気配がする。

 その気配が琉晴の鼓動を早くする。

 確実に人ではない、そんな野性的勘が琉晴の頭を過った。

 琉晴はその勘が当たっているか確かめるために、恐る恐る振り返った。


「にンゲん…にク…」


 だが、残念なことにその勘は当たっていた。

 そこにいたのは狼の人ならざる者だった。


「ハハ、嘘…だろ?」


 琉晴は目の前の超常的な出来事に笑うしかなかった。










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