またの名を あやとり名人すないぱー⑤
◇◇◇
「ハイ! ソーダアイス三つおまち! 頑張ってきなね」
ニカッと笑ってアイスバーを差し出してきたおばちゃんに笑顔を返し、らん丸は元気良く答えた。
「はいっ。頑張ります!」
アイスで塞がった両手に注意しながらセイジ達の下へパタパタと駆けて行く。
セイジと悠馬は道の脇にある芝生の木陰で、先程配られたルール表を囲んでなにやら話をしていた。
「おまたせ〜。はいこれ、二人の分!」
「おっ。気が利くなぁ。サンキュ」
「何見てるの?」
「ルールの再確認。やっぱり得点盤の装着場所の記述はどこにも書いてないな」
「リーダぁ、やっぱり頭に付けるの?」
「当然だ。馬鹿な雑魚共がいくらでも寄ってくるからな」
「う〜ん……、敵もこいつが罠なのか馬鹿なのか大いに悩む所だな」
苦笑しながらアイスをかじった悠馬がその先っぽでらん丸を指し示した。
「そ〜だ。らんに関係することも書いてあったぞ」
「えっ? どこ?」
「ここ。『試合では支給されたもの以外の道具の持ち込み不可』って奴」
「流石に合戦には〈輪ゴム銃〉も〈巨大ハンマー〉も持ち込まないよ」
笑って手を振るらん丸を横目で見つつ、悠馬が言う。
「らん。自分の頭触ってみろよ」
「えっ?」
言われて手をやって、あっと声を上げるらん丸。
「髪ゴム!! これって違反になるの!?」
「“科学科”の技術は中々侮れんからな。それを警戒してのことだろう。おお、アタリだ」
早くもアイスを半分食べきっているセイジである。
「悠馬の片っぽピアスは?」
「とっくに外してるよ。でないと諸星団長に殴られるから」
「ええ〜……でも、前髪上げてないとおれも団長に怒られるんだけどなぁ……」
「フッ。丸めるしかないようだな」
「やだよっ!!」
「まぁ多分応援団の服装指定で決まった髪ゴムとかがあるんじゃないか? 女子で参加する人とかもいるし。後で副団長にでも聞いてみろよ。……んでまぁそれはいいとして、この中でもうひとつ重要なのが……」
「まだあるのか?」
「一番重要だからよく聞いとけよ。……これだ。『得点の割合は以下のものとする』」
学年ごとの点数配分が記された部分を指し示して、悠馬は噛み含めるように言った。
「5年800点、4年350点、3年200点、2年125点、1年80点。……これがどういう意味か分かるか?」
「う〜んと……何かの法則っぽいわけじゃないし……あっ、1年と5年だと10倍も差があるね!」
「つまり雑魚は放っておいて幹部クラスを倒して行けという事だな!?」
早くも炎をたぎらせるセイジを慌てて制す悠馬。
「待てって! 全然分かってねーな! これだけ見たって駄目なんだよ。各学年の人数も考えに入れないとな」
「人数だと?」
「いいか? どこの団も1年25人、2年20人、3年15人、4年10人、5年5人の計75人が基本形態だ。前夜祭で減ったりなんかもしてるがそこはとりあえず置いておく。お前らの計算じゃ心許ないから書いちまうぞ?」
そこまで言うと悠馬は点数配分の横に人数を書き込んでいく。
5年800点 × 5人=4000点
4年350点 ×10人=3500点
3年200点 ×15人=3000点
2年125点 ×20人=2500点
1年 80点 ×25人=2000点
書き込まれた学年ごとの総合点数を見て、セイジは短く鼻を鳴らした。
「やはり5年の方が得点が良いではないか」
「問題は人数だよ。5年生に比べて1年が五倍もいるだろ? 数が少なくて点が大きい強い奴を一人狙うより、数が多くて弱い奴等を一杯倒す方が楽な場合が出てくるんだよ。例えば4年と3年見てみ」
「あ……! 3年生二人倒したら4年生の350点より大きくなる! 3年生と2年生でもそうだ!」
「そう。3年も四人倒せば5年生一人分の点が稼げるし、2年なら七人、1年なら十人だ」
「お〜っ!」
「待て。確かに計算上はそうなるだろうが、いくら俺さまでもたった6分で十人は倒せんぞ。それに倒せた所でやっと800点では体力の無駄にも程がある」
セイジの反論に、しかし悠馬は我が意を得たりとばかりに口の端に笑みを浮かべる。
「二つ目の問題はそこだ。手強い4,5年に比べて戦力の劣る2年〜3年をより多く倒す方が点は稼げる。これはきっとどこの団も考えてることだ。そして1年がいくら25人もいるとはいえ、あまりにも得点が少なく効率が悪いだろうという事も皆が考えてる。当然実力も一番劣る訳だし、始めから本気で倒そうなんて思ってこない」
それまで淡々と喋っていた悠馬は突然人差し指をビシッとセイジの鼻っ面に突きつける。
「しかしここに、少ない持点でありながら5年に匹敵する戦力を持った男が居る!! この強敵は2年や3年が相手をしてもあっさり返り討ちに遭う! 4年か5年、同等の実力を持った者が迎え撃っても戦力保有者の時間をいたづらに奪われて行くばかり。仮に苦労して倒したとしてもお前の得点はたったの80点! 微々たる物にも程がある!!」
淀みなく畳み掛けてくる悠馬の舌鋒に、じわりと圧倒されたセイジとらん丸がごくりと唾を鳴らす。
「ハイリスク・ローリターンの具現化……それがお前なんだよセイジッ!!」
ザッパ〜〜〜〜ンッ!!
悠馬の背後で波飛沫が巻き起こる。何だかよく分からない雰囲気に呑まれて感嘆しながらのけ反る二人。
「な……なんだかリーダぁがとんでもなくスゴイ人に見えてきた……!」
「にゃはははっ。無理もない。俺さまハイリンス・ロケーションだからな!」
「ハイリスク・ローリターンな。骨折り損のくたびれ儲けって意味だ」
冷静に指摘する悠馬。
「分かったか? だからこいつは『青団の秘密兵器』なんだよ」
今セイジは仲間の団員達の間で密かにそう呼ばれている。とはいっても本人に秘密な訳ではなく、外部にその実力が漏れないように憚っているのだ。
「ううむ……。なにやらややこしい話をして疲れたな。もう一本貰ってくる、続きはそれからだ」
口にくわえた当たり棒をピコピコと弾ませながら立ち上がるセイジ。相変わらずゴーイング我が道なリーダーだ。
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