またの名を あやとり名人すないぱー④


◇◇◇


 応援演舞。

 応援団に人が集まる最大の理由にして応援団最大の見せ場がここにあった。統一された動きの連続は人にある種の感動を与える。



 どんっ! どんっ! どんっ! どどん どん どん ――……



『押念ッ!』


『勢ッ! 哈ッ!』



 肺に響き渡る大太鼓、胸を空くような息の合った掛け声、そして目まぐるしく“型”を入れ替え、立ち位置を入れ替える人の波。

 靴を履かない裸足の脚が力強く宙を蹴り上げ、地面を踏みしめ、駆けていく。流れるように四肢が“型”をつくり、体を交差させ、こぶしが地面を叩く、空を切る。

 動作と掛け声が太鼓のリズムと一体となり、絶え間なく打ち続く太鼓のリズムは見る者の鼓動と一体となる。



 どどんっ! どどんっ! ……どどどどどどどどどどどどど……



 太鼓の調子が変化した。“型”を舞うのをやめた応援団員達が素早くたすきを解いて学ランを脱ぎ、裏返して着用していく。再びたすきを掛けるに至るまで動作の一つ一つが全て型にはまっていて、統制されている。

 見事な昇り龍の刺繍に身を包んだ諸星が、前方に駆けて行った。

 再び腰を落とすその目の前にあるのは、青団の応援団旗である。


「覇ッ!!」



……どどどどどどどどどどどどど……!



 一層速まる太鼓の音が地鳴りのように断続的に響く中、巨大な団旗が諸星の手によりゆっくりと持ち上がって行き、掲げられた。


『覇ッ!!』


 そして、青い団服に青いたすきを締めた団員達が再び舞を始める。

 しかしそれは、先程までの動きとは明らかに違っていた。

 更に早く、更に大きく、更に激しく。

 掲げられた団旗の周りを囲むように、時には威嚇するかのごとく、固まり解けて、まるでひとつの巨大な生物がそこに存在するかのような動きだ。

 青団の演舞は、一頭の青龍と一人の男の戦いをなぞらえている。男は激しい戦いの末に青龍の力を手に入れ、英雄となったというものだ。



『覇ッ!!』



「――応ッ!」



 巨大な団旗が翻った。

 龍がうねる。

 空気が、大地が振動する。

 そして。

 団員と。

 観客と。

 空間、全てがひとつになった。



◇◇◇



 演舞が終了した時、会場は割れんばかりの拍手と熱気に包まれた。

 外部の見学者は校内の窓とモニターとからこの演舞を見ることが出来るが、こちらも歓声に包まれていた。

 勿論『赤虎』の面々も感動に奮えながら、惜しみない拍手を見事な仲間達に送っていた。


「大太鼓もカッコイイし、皆もカッコイイし、団長もカッコイイ! 去年よりもすごかった……!!」


 学校見学で去年の演舞を見た事があるらん丸が、興奮した様子で叫ぶ。


「凄い……確かにあれは凄い。それにこの熱狂的な支持……応援団ってのもまんざら悪いもんじゃねぇな」

「悠馬ったら今更何言ってるのさ!」

「あやつら中々やるではないか! 練習の時とは気魄が違うな!」

「〈アップリケ〉攻撃で一時はどうなるかと思ったけど、これなら青団の士気も最高潮だね!」

「ああ。大成功だ。皆と合流しようぜ、労ってやんねえとな。それに……」


 悠馬は二人を振り返ると、いつになく意気込んだ様子で言った。


「次のオレ達の仕事は……合戦に勝って青団の優勝に貢献することだ」



◇◇◇



「今年の合戦の最終的な正式ルールが発表された! 者共よく聞けい」


 整然と並んだ団員達にそう呼び掛けると、諸星は横に立つ陣内を促した。


「一、一試合につき6分の合戦を行い、最終順位に応じた得点を各団に加算するものとする。

順位は持点の量により定められる

一、持点は各団最高75名・15000点から成り、一人につき一つ支給される得点盤を割られることにより自団の点数が減っていく減点方式とする

一、選手はアクション棒の有効面以外での攻撃は反則とみなし退場、尚退場者も減点対象とする

一、選手は必ず得点盤を身につける事、違反が発覚した場合は退場及び減点対象とする

一、途中脱落したものは係の指示に従い速やかにフィールドから抜ける事

一、試合では支給されたもの以外の道具の持ち込み不可、また服装は各団の団服以外着用不可

 一、得点の割合は以下のものとする

5年800点

4年350点

3年200点

2年125点

1年 80点

 ……ちなみに最初の試合の相手は、銀団と緑団です」


「一体どちらと先に戦うのですか!?」


 挙手をして尋ねる団員の一人に、陣内は静かに首を振って答えた。


「一団ずつ順番に試合をしていくんじゃない。私達は銀団と緑団、同時に二団と戦うんだ」


 団員達の間にどよめきが沸き起こった。


「なんですって……!?」

「どういう事だ……」

「それは一体!?」


 ざわめく団員達の中、諸星がくつくつと声を立てずに笑う。


「今年のプログラム進行係にはどうやらとんだへそ曲がりがいるようじゃのう。わしら生徒が予測もつかんようなことをしでかしてくれるわい」


 どこの団もまさか三つ巴になって戦う練習はしていない。各団長にしても想定外の出来事なはずだ。その場その場の指揮の採り方、判断力で戦況は一変してしまうだろう。


「だ……団長……」

「焦るな。周りが敵しかいないことに変わりはないわい。おんしらは今まで通りの働きをすればいいんじゃ」


 その言葉で団員達の混乱は収まった。

 機を見計らって改めて陣内が口を開く。


「ルール表は各自に配るから、よく目を通しておくように。次の集合は合戦の20分前。合戦に向けての作戦はその時にまた発表する。以上だ」


 そして最後を諸星の一声が締めくくる。


「解散ッ!」

『押念っ!!』



◇◇◇


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