第497話
「赤き狐は道化の仮面を外して名実ともに四選侯と並ぶほどの大貴族になろうとしている。それを夢想と笑い飛ばせる者がいまや連邦諸侯の中にどれほど残っているでしょうね」
ラスター家の壮大な野心が確かなものであるなら、彼らの躍進は薬市場にとどまらないだろう。
将来的にはあらゆる市場に赤き狐の一族が進出する可能性があるといえる。
ロマリアの大貴族、大商人が持つ既得権益を打ち破った者達にそれが不可能だと言い切れる者はいるだろうか。
ユロア人達は感じはじめている。もしかすればラスター家は凝り固まったユロア社会に大きな変化をもたらす存在なのではないかと。
そして恐らくその変化を、既得権益の上に居座る者達は望みはしまい。
特に四選侯と呼ばれるほどの大貴族なら尚更のことだ。
「ずいぶんと連邦の事情に詳しいな」
「こんなもの詳しいうちにはいらないわ」
ベルティーナの主であるロブエル・ローガは一国の大臣職まで務めた男であり、彼を支えた老魔術師トーリは彼女の師である。
青国の情勢については、彼女は自然と耳に入ってくる立場にいたのだ。
むろんロブエルが失脚してからは他国の情勢を細かに追っている余裕などありはしなかっただろうが、それでも今現在のユロアの情勢とそう大きくずれた見解ではないだろう。
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