第460話

 幻の魔術師の名に場がどよめく。

 トーリより話を聞いてはいたものの、あらためてその名が出てくると、やはり驚きを禁じ得ぬのである。

「かの高名なる賢人がまことに存在すると?」

「古き精霊の存在は信じられても、黒の怪人の存在は信じられぬと言うのか、壁の王よ」

 レグスに問われ壁の民の王は唸った。

 男が語る話はどれも信じ難きものばかりであったが、その信じ難き事があの日より目の前で幾度と繰り返されてきたのだ。

 ましてや、その男は古き精霊であるスティアを連れ歩くほどの異質なる存在、マルフスが救世主と呼ぶ男である。

 どれほど信じ難き話とてゴルゴーラにはレグスの話を作り話だと断ずる事はできなかった。

「いかなる理由があって彼の老公はお前を助けた」

「その問いにかつて師は、『縁あり、奇を見たゆえ』とのみ語っていた」

「師とな。伝説の賢人を師と呼ぶか」

 驚く王にレグスは言う。

「師ガルドンモーラは俺が最後の弟子になると言っていた」

「最後?」

「賢者ガルドンモーラはもはやこの世におらず。千年に近き人の生を終え、天道に帰した」

「なんと……。不死者とすら噂されたあの黒の怪人が死んだと?」

「どれほど偉大な魔術師とて不滅の肉体を得れはしない。我が師もまた然り」

 レグスの言葉に王は再び唸り、場は静寂に包まれる。

 その静寂を破るのもまたレグスの言葉であった。

「されど、その不滅の肉体を手にした者が遥か東の地にいるという」

「東方の不死王か」

「たんなる空言か。あるいは、賢者をも凌ぐ超常の術を持つゆえか」

「超常の術……」

「キングメーカー。それを探し求め、俺は旅を続けてきた」

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