第459話

 その名乗りに物足りなそうな顔を浮かべながら王は問う。

「レグスよ。西の地に住まう者達の多くは我らと違い家名なるものを持つという。まさかお前が特別ただのレグスというわけもあるまい」

「もはや俺には帰る家もなければ、名乗る家名もない」

「たとえ今のお前にその気がなくとも、一度刻まれた名を捨てさる事は出来ぬものだ。答えよレグス、お前が生まれ背負った家の名を」

 それを名乗る事はレスグにとって己の出自を明らかにする事と同義。

 その覚悟を持って彼はここに立っていた。

「ロカ」

 レグスが家名を告げると場はまたもざわつく。そのざわつきには驚きと共に得心の念が混じっている。

 それもそのはず、この審問以前よりローガ開拓団の老魔術師トーリが立てた推測を聞き及んでいた彼らにとって、これはまったく予期せぬ出来事というわけではなかったのだ。

「ロカ。ミドルフリアの東端の国『ロレンシア』の王家であるあのロカか?」

 確認するように問う王の言葉をレグスは肯定する。

「然り、そのロカだ」

「ロレンシアの王家においてレグスの名を持つ者、我が知るはただ一人。蒼い花の女王の一人息子に生まれ、その母の手によって火刑に処された王太子。……それがお前であるというのか黒き剣の使い手、いや、レグスよ」

「そうだ」

「なにゆえ火刑に処されたはずの者がここに立つ」

「怪奇なる縁に救われて」

「その縁とは?」

「古き精霊と古き人の子」

「古き人の子?」

「賢者ガルドンモーラ」

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