第450話
「お前の言い分は、まるで狂人のそれだぞ」
「だがそれが、偽りようもない俺の本心だ」
断言する男の顔に迷いの色は無い。
涼やかにすら見えるその表情が、彼の揺るがぬ決意を告げていた。
「理由なき怒りに身を任せ戦い続け、結果その先に何がある。それがどれほど愚かな事かわからぬ人間ではないだろう」
「愚かであろうと、なかろうと、それが俺だ。この思いに蓋をして生きていくなど出来はしない」
「お前の身勝手な欲望を満たす為に、たとえ世界に危機が訪れようと知らぬ顔をすると言うのか」
「そうだ。たとえ世界が滅びる事になろうとも俺には引き摺り下ろし、刃を立てねばならぬ相手がいる」
目の前の男の頑なな態度にカムは話にならないとばかりに大きく息を吐いた。
そしてレグスではなく、深刻な表情のまま傍らで話を聞いていた精霊の少女へと矛先を向ける。
「セセリナ。何故止めない。こんな馬鹿な事を続けさすなど、お前の本意ではないはずだ」
「何度も止めたわよ。それで聞くような子なら苦労しないわ」
「だからといって精霊とあろう者がっ」
口調を強めるカムの言葉をさえぎり、セセリナは言う。
「この間の戦いで、はっきりとわかった事があるの」
古き炎の神に挑む際、レグスとセセリナはこれ以上とないほどに近い存在となった。
だからこそ、あの日、あの時、どうしようもなく彼女は理解してしまったのだ。
カムを見据え、精霊は言う。
「この子が抱く怒りを忘れるには、人の命は短すぎる」
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