第449話
レグスはファバ達に己の生い立ちから石の事、そして旅の目的までをも掻い摘んで語って聞かせた。
その話は、ここ一、二週間の間に壁の民達から漏れ聞こえてきた噂話を知る者達すら驚かすに十分なものであった。
かつてより男の言動、その端々からもただならぬ事情を抱えている事は察していた二人であったが、初めて耳にするその真実に言葉を失いかけてしまう。
励ましや慰めの言葉など出てこようはずもない。
途方にもなく大きく暗い、重き真実。
それを聞かされ、ゆっくりと確かめるようにカムはレグスに問い掛ける。
「一つ聞いていいか? お前が『キングメーカー』に固執するのはそれが人の世に悪しき災いをもたらす呪われた石であるからか? それとも、己の呪われた宿命を断つ故か」
「後者だ。もし悪しき災いから世を救う為だと言うのなら、壁の民達が協力を求めてきたのならそれに応ずるのが筋だろう。だが俺には微塵もその気は無い。俺は、俺自身の目的を果たす為に、壁を越え古き精霊の王のもとへと向かう」
「その選択は己を救う為か、それとも単なる復讐の為か」
「どちらでもあると言えるし、どちらでもないとも言える」
仲間の問いに男は偽る事無く本心で答える。
「自身の境遇から目を逸らし生きていく事など俺には出来ない。ましてや、己の内に滾るこの感情を完全に殺す事など……。復讐心。この感情にそう名付けてしまうのは簡単な事だろう。だが俺はこれをそう呼ぶのに違和感を覚えずにはいられない。地獄を見、生死をさ迷い、なおも衰える事なく抱き続けたこの感情は、もはや根本からしてそんな類いのモノとは異なっているのだと、思えてならない」
「ではいったい何だと言うのだ?」
「怒り。それも純粋と呼べるほどに極まったものだ。あれが存在し、それを許せぬ自分がいる。そこにもはや特別な理由すらも必要ない。あれへの怒りは理屈や道理をも凌駕する」
「お前が抱く怒りは復讐の為のものですらないと言うのか?」
「飢餓人は食わねば死ぬから食らうのではない。腹が減るからただ食らうのだ。俺の怒りもまた同じ、復讐の為などと理由付けは必要ない。飢えにも似たこの怒りを慰める事が出来るのは、奴の破滅を以って他に存在しない。ただそれだけの事だ」
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