第441話

「勇者ガァガ、本当によろしいのか?」

 部屋の外で待機していた部下の一人が退出と共にガァガに声をかけてくる。

「何がだ」

「皆を代表し、わざわざ王があなたにと任じた命であったのに……。それをこんなあっさりと話を切り上げてしまうなんて、そのうえ何も聞けずじまいでは……。元老院議員達はあなたを批難するに違いない」

 懸念を抱く若き勇者に、老いたる勇者は廊下を歩き進みながら言う。

「ならば、『我らが救世主よ』と助けを乞う事になるやもしれぬ相手に対して礼を欠き、機嫌を損ねるような振る舞いを続けろと言うのか」

「それは……」

「話を続けたとして、必要な事に口を閉ざされたらどうする。次は拷問にでもかけるか?」

 何も言えず目を伏せる部下の様子に、ガァガは続けて言う。

「どのみちあの体ではどこぞへといけるわけでもないのだ。ならば二、三日待てば気持ちよく話してくれるというのなら、それに越した事はあるまい」

 実際のところそう上手く物事は進まないだろう。そんな事はガァガとてわかっていた。

 だがこれから先、何がどうなるにせよ。あの男には束の間の休息を与える事ぐらいの配慮はあってしかるべきだ、と彼は考えていた。

 戦いの民として生きてきた男だからこそ、あれほど見事に戦ってみせた者に対して畏敬の念を抱かずにはいられない。

 それは王や元老院議員、そして彼の傍らに立つ若き勇者とて同じであるはずだ。

「心配するな。たとえ何も聞けずじまいだとして我らが王は重い処罰をくだすような真似はなさらん」

 そう口にしながらもガァガの足取りはどこか重かった。

 彼の気を重くしていたのは、処罰に対する恐怖や議員達から浴びせれられるであろう罵倒などではない。

 王の失望。

 その一つの事だけが彼をいくばくか憂鬱な気分にさせていたのだ。

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