第409話
「たとえ偉大な風の守りがあれど無敵にはなれない。もしあなたがイファートに敗れるような事があれば……、私も運命を共にする事になるわ」
レグスの傲慢が彼女を殺す事になるやもしれない。
その事実を理解してなお、彼は自然と、それが極当たり前の事であるかのように言ってのける。
「そうか。だったらその時は、死んでくれ」
彼にはわかっていた、その傲慢な言葉をセセリナは決して拒まぬ事を。
それはある種の信頼。
そして精霊もまた理解している、男の言葉に込められた覚悟を。
それはある種の憐憫。
「人の為に命を懸けようなど、昔の私が聞いたらきっと笑うでしょうね」
馬鹿げていると思っていた、精霊が人の為に命を懸けるなど。
理解出来なかった、永き時を経て賢知を身に付けたはずの者が、どうして定命の者の為に愚行をおかすのか。
湖の娘ニュミエは何故掟を破り、聖剣を与えたのだろう。
そのせいで聖なるヴィヌ湖は枯れてしまった。
山の子ラゼブルは何故誓いを破り、山を出たのだろう。
そのせいで豊かなるノーファの恵みは失われてしまった。
谷の王イワナは何故盟約を破り、人の世に介入したのか。
そのせいで美しきモラ聖谷は滅んでしまった。
かつては理解しようもなかった、人ごときの為に大いなる精霊達が永遠を捨て、滅んだ理由。
皮肉な笑みを浮かべる精霊の少女に、レグスは真剣な眼差しを向け一言だけ口にする。
「俺は笑わない」
その一言で十分だった。
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