第397話

 ベルティーナだけが城外で暴れるあの巨大な炎の神を従える事が出来る。

 それは古き精霊のセセリナとて出来ぬ事、光焔の女王である彼女だけがこの場で唯一その資格を有しているのだ。

 トーリとてそれぐらいは理解している。

「無論わかっておるとも。だが、これはただ気を失ったわけではなく、あれほどの力の反動でこうなってしまったのだ。深く沈んだ意識を呼び戻すのはそう簡単に出来る事ではない。それとも精霊の力を以ってすれば、それが可能だと?」

「いいえ、そんな事私だって簡単には出来ないわ」

 いくら古き精霊とて万能の力を有しているわけではない。

 セセリナが死の淵ほどに深く沈んだレグスの意識を呼び戻せたのは、彼との関係がそれだけ密であったからだ。

 生まれた直後、赤子の頃からレグスの肉体も精神もセセリナと共にあった。

 あれは、それほどに密接な関係だからこそ出来た芸当。ベルティーナ相手では同じようにはいかない。

 精霊の返答に開拓団の面々はため息をついた。

 そのうちの一人、ミルカは自身が纏っていた外套を姉に被せてやりながらセセリナに尋ねる。

「では精霊様、私達はどうしたら?」

「そうねぇ……」

 姉の身を案じる少女の問いに青き精霊が考え込む仕草をみせた時だった。

――ウボオオォォ!!

 城外からイファートの咆哮が聞こえた。

 古き神のその声に、精霊は深刻な表情をつくり言う。

「まずいわね。共鳴者を失い、さらに昂っている。完全に暴走し始めたわ」

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