第396話

「いやぁ!!」

 姉の絶命の危機にミルカが悲鳴をあげる。

 その時、地面より影の手が生え伸び、落下する娘の身を受け止め包み込んだ。

「なんとか間に合ったか」

 地面に叩きつけられずに済んだベルティーナの姿に、息をついて安堵したのはトーリであった。

 影の手の魔法は、彼が急ぎ描いた魔法陣より発生したもの。

「トーリ!!」

「でかした、トーリの爺さん!!」

 開拓団の面々が喜び、地面に降ろされたベルティーナのもとへと駆け寄る。

「大丈夫?」

 身動きせぬ姉の様子を窺うミルカ。

 心配する彼女にトーリは言う。

「息はしとる、気を失っとるだけよ。命に別状はない」

 老魔術師のその言葉に集った一同愁眉を開くが、そんな彼らに対してトーリは険しい口調で言葉を続ける。

「だが消耗が激しい。あれだけの事があったのだ、無理ないがの」

 急激な力の覚醒と古き神の召喚。

 その大業の反動は大きく、精神的にも、肉体的にも、ベルティーナにはまだその負担を耐えきるだけの力が備わっていない。

 ロブエルの無事を知り、光焔の女王としての力より醒めた彼女がこうして気を失ってしまうのも当然であった。 

「この様子ではいつ目が覚めるか見当もつかん」

 そう言ってトーリがため息をつくと、頭上より聞き覚えのある少女の声がした。

「それは困った話ね」

 見上げてみれば、そこにいたのは宙に浮く青き精霊セセリナだった。

 老魔術師は彼女に問う。

「精霊よ、何用だ」

「何用だ、じゃないわよ。あなた達だってわかってるでしょ? 呼び出した古き神を送り帰す事が出来るのは、召喚者であるこの娘だけよ」

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