第378話

「どうして……」

 愕然とする少女の頭の中を悪い想像が支配する。

 ロブエルの遺体が部屋の中に見当たらないのは、食い意地の張った卑しい魔物共が骨ごと喰らい尽くしてしまったからではないか。

 実際、部屋のおびただしい血の量に対して、散らばる肉片や骨の数は少なすぎた。彼女の想像が考えすぎなどという事はない。

 むしろ、そう考える方が自然と言えるほどに、部屋には凄惨な光景が広がっている。

「失敗した……。最初から私が傍にいるべきだったのよ……」

 力なくその場に座り込むベルティーナに、他の三人は掛ける言葉を見つける事が出来なかった。

 どのような気休めの言葉も今の彼女には届き得ない事を、彼らはよくわかっていた。

「マシューなんかに任せたのが間違いだった……」

 冷たく震える少女の声が血塗れの部屋に空虚に響く。

 ベルティーナにとってロブエル・ローガは育ての親以上の存在だった。

 妹のミルカと異なり、それは病的な依存と言えた。彼女にとってロブエルは世界の全てと言っていいほどの存在だったのだ。

 そんな存在を失う喪失感はどれほどのものであろうか。

 血を分けた兄妹とて、その喪失感を埋める事など出来はしない。

「許さない。絶対に許さない」

 鬼気のこもったその口調に次いで、重苦しく静かな間を置いてベルティーナは言う。

「ねぇ……、私を一人にさせてもらえないかしら」

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