第379話

 ミルカ達は己の耳を疑った。

 こんなところに一人で残ったら城内に溢れる魔物共の恰好の餌食だ。

 そんな自殺行為、認めるわけにはいかない。

「何を言ってるのベルティーナ!? こんなところにいたらあなたまで!!」

 背を向け座り込む姉に駆け寄ろうとするミルカだったが、振り返ったベルティーナの顔にギョッとしその足は止まる。

 くすんだ灰色でも輝く紫色でもなく、彼女の瞳は赤々と燃えていた。

 燃える瞳から煮えたぎる涙が頬を伝い零れ落ち、石造りの床を焦がしている。

 その異様な光景にミルカ達は尋常ならざる何かがベルティーナの身に起きている事を知る。

「ベルティーナ……、あなた大丈夫なの? 火が……」

「火? そうよ……。火が足りないの。寒くて寒くて……、もっと火が必要なの、全てを燃やし尽くすほどの炎が」

 心配するミルカに対してベルティーナの返答はどこかずれている。もはや彼女が正気でない事は明らかだった。

「お願いだから三人共、私の前から消えて頂戴。じゃないと、貴方達まで一緒に消し炭にしてしまいそう……」

 ベルティーナの言葉に戸惑うミルカの手を、トーリが引く。

「行くぞ二人共、すぐにここを離れるのだ」

「離れるって……、でもベルティーナは」

「恐らくは血が目覚めようとしておるのだ。ぐずぐずしておれば、お前達とて巻き添えを食らうやもしれん!!」

 老魔術師の言葉にミルカとグラスは驚いた。

 彼の言う血が意味するもので思い当たるのは一つしかない。

 自分達にも流れる禍難の民の血。

 一国を一夜にして滅ぼしたという伝説を持つ流浪の民『フラーマ』人の血だ。

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