第365話
激憤が込められたレグスの言葉にも、ラグナレクはまるで動じない。
超常の石の化身はただ冷たく言い放つのみであった。
「それはいつだ?」
と。
そして虚を衝かれたように固まるレグスに魔石は語る。
「器子よ。お前が望むならば、私はすぐにでもお前のもとへと姿を見せよう。ただ封印を解けば良い。そして試みるがいい。蟻に山が動かせられるかを」
悪魔の誘いだった。
煮え欲した機会を目の前にぶら下げ、レグスのさらなる激情を誘っているのは明らかだった。
彼とてそれを頭では理解出来ている。
されど己の血をたぎらせるこの激情が、合理や計算の内に収まるほどのモノならば、もとより超常の存在を相手に抗おうなどしようか。
「それともお前の言葉は単なる虚勢か」
我を失うに十分たるラグナレクの言。
怒りに呑まれほとんど無意識に斬りかかろうとレグスは踏み出す。
だが黒剣が標的を再び斬り裂くより早く、件の風が吹き、彼の頬を優しく撫でた。
――セセリナ!?
覚えのあるその風に静められ、レグスの動きが止まる。
それが彼の選択だった。
わかっている。
今ではない。まだその時ではないのだ。
「選択を誤り続けた愚かな器子よ、時間切れだ」
もはや己の望み通りいかぬと知ったラグナレクはそんな台詞を吐き捨てた。
超常の石の化身にとって、この状況下で己の力を拒むレグスの態度は自殺を選んだようなものにしか見えなかったのだ。
そして、石の化身が混沌の闇に溶けゆくと共に、偽りの安寧の地も消える。
残るはただ広がる混沌の闇の世界。
その世界に一人佇む男のもとへ、怪物が踏み鳴らす大きな足音が近付き響いてくる。
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