第328話

 公太子は容姿端麗かつ文武に優れたる才人として領民達から慕われるだけでなく、諸侯からの信頼も厚く、特に女王の統治下で煮え湯を飲まされる事も多かった名門貴族達からの期待は大きかった。『古き良きロレンシアをもう一度』を合言葉に、彼らはラザーン公太子こそが次期国王に相応しいと、その後押しを熱心に行っていたのである。

 対して、国民達から絶大な支持を受ける女王とは違い、その息子は曰くある出自から人々の覚えも悪く、女王派とされる臣下の中にすら彼を後継者候補から外すべきだと主張する者がいたという。

 そのような状況下で女王がくだした一つの決断。

 それは彼女の息子が齢十五のうちに、後継者の指名を行うという事であった。

 要するに、自身の息子とラザーン公太子のどちらを次期国王とするかの判断を下すというのである。


 当然両者の支持者達はその期限まで裏表問わず熱心に働き、さらなる支持者を集め、国民達を煽った、次の国王に相応しきはどちらぞと。

 その時、貴族達とは別に公太子の大きな後ろ盾となった勢力が存在した。

 ロレンシアのみならずミドルフリア、延いてはフリア全土にすら影響力を持つ一大勢力『フリア教会』である。

 教会が公太子の後ろ盾となった理由はきわめて単純で、彼らとしても狂王の堕とし仔の噂があるような者が一国の王に選ばれるのは好ましい事ではなかったのだ。

 そのうえ、女王の新しき政治と統治は彼らにとって都合悪き事も多く、もし古い政治の理解者ともなれるラザーンの公太子がロレンシアの王となれば、教会はフリアの地における影響力をさらに強める事も可能となる。

 玉座を狙う公太子派と教会の利害は『息苦しい女王の統治からの脱却』という一点で一致していた。

 アンヘイを滅亡させフリアの地を救った連合の旗振り役となった教会は、他国と同様にロレンシアでも国民達から多くの支持を集めており、その彼らが公太子派についた事実は大きかった。

 当初こそ拮抗していた両陣営の勢いも、次第に天秤は公太子派へと傾いていき、日が経つにつれ、その差はどんどんと開いていく。

 そして貴族、聖職者、平民と、あらゆる層から公太子を支持する声が高まり、絶対的なはずの女王ですらそれを無下に出来ぬほどになった頃、『ラザーン公太子暗殺未遂事件』が発生したのである。

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