第327話
『黒蠅』とは当時ロレンシアを騒がせていた強盗団の呼び名であり、彼らは過激かつ手際のよい犯行を重ねに重ね、貴族達の所領を荒らしまわっていた。
あまりの手際の良さとなかなか捕まらない強盗団に、どこか有力な貴族の後ろ盾を得ているではと噂される事もあったが、被害を被るのがその貴族達が中心なのだから、所詮は噂止まりに終わる。
そしてある年の風月に事件は起こる。ラザーン公領で金貨の輸送の任に当たっていた荷馬車隊が『黒蠅』に襲われ、偶然同行していたラザーンの公太子が巻き込まれ重傷を負ったのだ。
その報を受けたラザーン公の怒りは凄まじく、彼は際限なく捜査費をつぎ込むと『黒蠅』のアジトを見つけ出し、制圧。
あっという間に事件を解決してしまった……、かのように思われたのだが、事件はこれで終わらない。
捕まった『黒蠅』の一人がラザーン公領での事件は依頼を受けてのものであり、それも狙いが金貨ではなく公太子であった事を自供したのである。
事件は単なる強盗事件ではなく、暗殺未遂事件の様相を呈するようになったのだ。
ラザーン公太子暗殺未遂事件の黒幕として最初に挙がったのは、政争相手である貴族達であった。
ラザーン公は英雄王ラルファンの実弟であり、紛う事無きロカの血が彼には流れている。
その息子であるラザーン公太子も当然それは同じであり、公太子はラザーン公領の第一後継者であると同時に、王位継承権の保持者でもあった。
ロレンシアでは王位は基本として、王からの指名による選抜制で決められており、たとえ生まれによる王位継承権の優先位が最後尾にあったとしても、指名を受けた者が次期国王となる事が出来る。
そして当時ロレンシアは次期王の座を巡り、真っ二つに勢力が割れていた。
有力候補の一人が女王の息子であるのは自明として、その対抗となっていたのが件の暗殺未遂事件の被害者、ラザーン公太子であったのだ。
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