第322話

 そのうちに老魔術師が思い出す精霊のある言葉。

『レグス』。

 青き精霊の少女は男にそう呼びかけていた。

 男は自分達には『ゲッカ』と名乗っていたはずである。

 もしそれが偽名だとするならば、彼女が呼んだ『レグス』という名こそが、男の本当の名なのだろうか。

 あるいはそれすらも偽名なのかもしれない……。

 くだらぬ思考だとトーリは思った。

 それを考える事に、たいした意味などないはずであった。

――名前など……、名前?

 くだらぬはずの思考が連想し繋がっていく。

――名といえば、あの男が呟き漏らした『ガルドンモーラ』という言葉、やはりどこかで聞いた覚えがある。

 それもまた『名』であろうか。

 いったい何の名か。

 物の名か、はたまた地名か、人名か。

――人名……。

 その考えに及んだ時、老魔術師の全身を答えとなる記憶が閃光の如く貫いた。

――ガルドンモーラ!!

 錆び付いた記憶が衝撃と共に、勢いを増して色付きよみがえる。

――まさか『黒の怪人ガルドンモーラ』の事か!!

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