第321話『記憶の迷宮』

 去りゆく邪剣使いの後姿を黙って見送った後、トーリ自身もまた、なおも続く防衛戦に身を投じる。

 戦況を盛り返したとはいっても、まだまだ多くの魔物達が攻め寄せてきている最中なのだ。

 休む暇などありはしなかった。

 その忙しさの中にあって、老魔術師がどうしても気にかけてしまうのは、城外の敵軍ではなく、内で味方として戦うあの男の事であった。

――止めるべきだったか。しつこく問いただすべきだったか。

 魔法を唱え、魔物の群れを払う最中にも老魔術師の脳裏に巡るのは邪剣使いの危険性、その正体について。

――だがそんな事をしていてどうする。今優先すべきは目の前の敵を追い払う事。

 わかりきった優先事項、しかし懸念がこびり付き離れようとしない。

――もし魔剣の力が暴走するような事があれば……。

 いや、それは杞憂か。

 あの男には件の精霊が付いている。悪い精霊には見えなかった。彼女がいれば剣の暴走も抑えきれぬのやもしれない。

 それともそれこそが希望的な観測にすぎない落とし穴なのだろうか。

 トーリは同じような問答をぐるぐると何度も繰り返していた。

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