第314話

 かつて天の慈悲深き女神ティアタムは、苛烈極まる天魔の戦いの最中にあって、彼女の信徒たる者達に穢れに堕ちた魂に救いをもたらす神剣を授け給うた。

 その神剣には邪に囚われた魂を浄化する神力が備わっており、宥恕と慈悲の女神の信徒らはこの剣を用いて戦い、多くの魂を救済したという。

 されども時が流れ、五大国の勢いが増す世になると、慈悲深き女神が与え給うた神剣は貶められ、その名と姿を変える事になる。

 時のユロア大連邦、青国の大王に仕える魔術師達が企んだのだ。

 神剣の力を歪めれば、剣の内に閉じ込めた魂を浄化するのではなく、己の力とし利用出来ぬかと。

 彼らの企みは見事成功した。

 多くの失敗と犠牲を伴ったが、神力を歪めし禁断の魔剣を完成させてみせたのである。

 そして魔剣は青国の大王へと献上され、彼の大王はその破壊的な威力を目の当たりにする事になる。

 一目でその恐ろしき剣の力に魅入られた大王は、各地に眠る救魂の神剣を狩り集め、それをもとにして魔術師達に魔剣を量産させた。

 こうして生まれたのが『ケルサスケントゥリア』、またの名を『百魂の剣』と呼ばれる百本の禍々しき邪剣であった。


 百本の邪剣にはそれぞれ名が与えられた。

 ある剣は王より、ある剣は主より、ある剣は戦いでの活躍を以ってして、そしてある剣は忌み恐れられて……、時と場を変えながら、それぞれに名がつけられていった。

 それから膨大な時を積み重ねる内に、最初に与えられた名すら変え、姿をも変える事もあったが、邪剣の持つ凶悪な力はいつの時代も変わる事はなかった。

 神の力を歪めし禁断の魔剣にして破滅をもたらす邪剣『ケルサスケントゥリア』。

 男が持つ黒剣も、そんな内の一本に違いなかった。

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