第304話

「無理はするな。後続がある程度のぼりきるまでの間、時間を稼げればそれでいい」

 ケルドラの指示に煉撰隊のメンバー達が頷く。

「了解」

「了解、でもまぁちょっと遊んできますよ」

 そう言って一人、二人が少しばかり突出し斬り込んでいく。

 そしていとも簡単そうに壁の民達の守りを突破してみせたのだ。

「くそっ、突破されたぞ!!」

「この腐れエルフ共、強いっ!!」

 そんな声をあげて慌てる壁の民達に、近場にいたローガ開拓団の面々も事態を察する。

「おいおい、しっかりしてくれよ」

 抜けてきたダークエルフの姿を見ながらガドーが呟いた。

 この時まだ彼は理解していなかった、抜けてきたそのエルフがどれほどの強者であるのかを。

 戦いに忙しく、のぼってきたダークエルフ達をよくよく観察していたわけではない。

 だから彼らを偶然に漏れ抜けた存在、その程度にしかガドーは思っていなかったのだ。

 ハゲ頭の青目人は特に深くも考えず、乗り込んできたダークエルフを排除しようと近付いていった。

 そして迂闊に斬りかかったその瞬間、彼は知る。

 それがどれほどの無謀であったかを。

「ぬおっ!!」

 目にも止まらぬ速さでダークエルフの剣がガドーを襲う。

「ぐっ!!」

 とっさに攻撃を受け致命傷を避けられたのは、たまたまとしか言い様がない。

 敵の剣筋をガドーは完全に見失っていた。

 力量差はその一手で理解出来た。

――こいつはやべぇ……。

 そう思ったのも束の間、体勢を崩したガドーに相手のダークエルフが即座に反応し斬りかかってくる。

 力量差を思えば、この攻撃で勝負が決まってもおかしくはなかった。

 剣音が鳴る。

「ちっ、完全に不意をついたと思ったんだがな」

 それはディオンの剣を、ダークエルフの剣が受けた音だった。

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