第277話

「茶化すな、まじめな話だ」

 真顔で問い掛けるレグスにセセリナも口調をあらため言い直す。

「大真面目よ」

 青き精霊の少女の瞳も、言葉も、真剣そのものであった。

「私はあなたが赤子の時から面倒を見てきているの。……わかるでしょ?」

 赤子の時から、いいや彼が母の腹の内にあった時から見守ってきたのだ。親友であるリーシェの子という以上の親愛の情があった。

 しかし彼女のそれに甘えるような事を、レグスはしたくはなかった。

「お前はもう十分とよくやってくれた」

 偽りのない労いの言葉ではあったが、それを伝えるに相応しい時と場ではなかった。

 精霊の少女は悲哀の情をその美しき顔に浮かべて言う。

「そういう事じゃない。どれだけやったとか、やらなかったとか、そんな事……」

 たとえ彼女がその内に秘める思いをどれだけ語ろうと、その思いが届こうと、たぶん無駄だろう。

 レグスとはそういう男だ。

 その事を彼女とて理解している。

「やめましょうこんな話」

 哀情を含んだ口調にて話題を無理に打ち切るセセリナ。

 そして彼女は言う。

「……とにかくあなたは自分の事だけに集中なさい。厳しい戦いになるわ」

 その言葉を残し、古き精霊はレグスのはめる指輪の中へと引っ込むのであった。

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