第276話

 レグスとセセリナが会話をする内に、最後の試しが終了する。

 不幸中の幸いと言うべきか、終わってみれば壁の民に化けた悪魔は当初懸念されていたよりも数はずっと少なく、影響は限定的なものに止める事に成功した。

 想定される潜り込んでいた悪魔達による破壊工作についても、その対応は壁の民達によって進められている。

 戦いの最中で門が開くような事態は、今度は避けられるだろう。

「さてと、あとは彼らに任せて、私達は少しでも英気を養うとしましょう。戦いでのあなたの活躍、期待してるわよ」

 内に潜む悪魔共の排除は済んだ。城外の魔物達による城攻めが始めるまでの間、少しでも休憩を取ろうと提案するセセリナにレグスが尋ねる。

「ああ。……お前は大丈夫か?」

「私?」

「今日だけでもだいぶ無理をさせた」

 レグスはセセリナを気遣っていた。

 いくら大きな力を持つ古き精霊であろうと、その力は無限ではない。

 彼女の力の多くは魔石によってレグスの内に刻まれた巨大な悪しき力を封じるのに普段から割かれており、実際に扱える力は限られてしまっている。

 そのうえ今日は瀕死の重傷者の治療に、王を説得する為に打った芝居にもはったりを利かせる為に少なくない力を使用している。

 レグスは感じていた、自身の内の魔を封じる精霊の力のわずかな揺らぎを。

 それは今日の出来事が彼女にとって少なくない負担であった事の他ならぬ証明でもあった。

「私の心配するより、あなたは自分の事を心配してなさいな」

 表面上は普段と変わりなく平然と振舞ってはいるものの、内心かなり消耗している事は間違いない。

 あまり無理をさせれば、この戦い、彼女とて無事でいられる保障はない。

「いざとなればお前だけでもここを脱しろ」

 レグスの言葉に少し驚いたような表情を見せるセセリナ。

「馬鹿を言わないで。親友の子を見捨てるような薄情な女じゃなくてよ」

 レグスの心配を余所に軽い口調で精霊の少女は言った。

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