第272話
「どうした。そう拒む事もなかろう。偉大なお前達の王が口をつけた杯だ。光栄に思い、頂戴するといい」
そう言って無理矢理杯の内の液体を男の口の中へと流し込むレグス。
抵抗しようにも精霊の力に押さえつけられ、ベベブは何も出来ない。
そして杯の聖水を全て飲み干したその者はたちまち苦しみだし、もがき始めた。
おぞましき声をあげて悶える男を尻目に精霊が言う。
「よく見るがいい。これがお前達の内に巣食った害虫共の姿だ」
ベベブの肉体が、見る見るうちに異形の者へと変貌していく。
「なんという事だ……」
その真の姿を見たゴルゴーラ王は絶句した。
まさか忠臣と思っていた元老院議員の正体が、斯くも醜き悪魔であったとは。
「後少し、もう少しであったのに……、忌まわしき精霊め、余計な事を……」
青き少女を睨みつけ、息も絶え絶えに恨めしく呟く悪魔。
「だが、ここで俺様を殺したところで、もはや状況は変わらん……。お前達は皆殺しだ!! 一人残らず、皆殺し!! 壁の西に住まう人間もろともだ!! ざまぁみろ!! 暗黒の世で最後に笑うのは我らが女皇アヴァリータ様だ!! ギヒッ、ギヒヒヒ、ゲヘヘヘ、ギァアハッハハ!!」
捨て台詞とばかりに喚き笑う悪魔の首を黒い剣が斬り飛ばす。
「よく喋る奴だ」
一太刀にて悪魔を仕留めたレグスが呆れ言った。
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