第228話

 ガドーがレグスの執念とも言うべき闘争本能に驚愕していた頃、貴賓席から決闘を見守っていた元老院議員達は、彼らの英雄の敗北に悲痛な表情を浮かべ嘆いた。

 特にこの決闘裁判に対して、強硬に反対していた元老院議員ベベブのそれは一際である。

「何て事だ……、何て事だ!! このような事はあってはならん。あってはならんぞ!! ……陛下!! すぐにでもこのような愚かな茶番に幕を引くべきです。マルフスの処刑を今すぐにでも!!」

 動揺するベベブの信じ難い発言に、ガァガが口を挟む。

「何を馬鹿な。今、目の前で、天意が示されたのを見ていなかったのか!! これは神聖なる決闘裁判。神々の審判を無下にするなど、あってはならん!!」

 壁の民は自身らが背負う過酷な使命を、神々より与えられたものだと信じ戦い続けてきた。

 そして民を率いる壁の守護者たる王の正当性もまた、神々の神威によって成り立つ物だと考えている。

 であるならば、王がその神威を無下に扱えば、自身の正当性すらも揺るがす愚行となる。

 神々に唾吐く者を、誰が神々の代理人として認めよう。

 神聖なる決闘裁判の結果は、絶対であらねばならないはずだ。

「神聖だと? 神々の審判だと? ではそれが我らに何をもたらす!! 今まで民に相手にされもしなかった、あの愚かな男の虚言が、この決闘によって真実味を帯び、毒となったのだぞ!! それも人心を惑わす猛毒だ!! 今ここでその毒を断たねば、我らは毒死するぞ!!」

「だがそれが神々の御意志だ。どのような苦難が待とうと、我らはそれを甘んじて受けるより他にない」

「違うな。幸い開拓団の多くは昨日の内にこの地を発った。残った異人共の口を封じてしまえば、あとはどうとでもなる!!」

 二人の大男が意見を戦わせる中、ようやく王が口を開く。

「教えてくれ。これは現実か? 我らの英雄が、勇者にも値うほどの男が、あのように敗北するなど……」

 その口調は豪胆で知られるゴルゴーラ王のものとは思えぬほどに弱々しかった。

 彼とて目の前で繰り広げられた光景が信じられなかった。そして信じたくなかったのだ。

 勝利はすぐそこまで来ていた。闘士ブノーブが掴みかけた勝利は、この地に今までと変わる事のない厳しき試練と共に、栄光を約束してくれたはずだ。

 だがそれは潰えた。

 彼は恐れている、あの恐ろしき予言が成就する事を。

 膝に置かれた王の手が、小刻みに震えていた。

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