第227話

 何事においても、終わりというやつはいとも呆気なく訪れたりするものなのだろうが、レグスとブノーブ、二人の男の死闘、その決着を見た人々の最初の感情は途惑いであった。

 それも無理はない。誰がこのような決着を予期出来ようか。

 華々しさとはかけ離れ、一見、まぬけにすら見えるこのような終わり方を、いったい誰が望もうか。

 途惑いの後に、戦いの目撃者達は、それぞれが、様々な感情を呼び起こす。

 ローガ開拓団やファバ達は無論、この決着を歓迎した。

「ずる賢い野郎だぜ!! きっちりと奥の手仕込んでやがった!!」

 ガドーはレグスの勝因が事前の意図した仕込みにあると思い込んでいた。

 つまり、勝因となったあの短剣を最後の最後の場面まで、レグスは温存し、隠し持っていたのだと。

 彼だけではない、大勢の人々がそう思っていた。

 しかし、シドの見解は違う。

「違う。あれは本能だ。あの男の闘争本能が、土壇場での勝利を呼び込んだ」

「本能?」

「あの短剣はあくまで相手の剣を見極める為に用意された物だった。間違いなく奴は、最初の投擲で短剣を全て使いきっていた」

「えっ、けど……」

 ガドーにはわからない。

 最初の一連の投擲で全てを使いきったと言うのなら、では最後のあの一本は何だと言うのだ。

「その後だ。奴が勝利を掴む一本を手にしたのは」

「後?」

「蹴り飛ばされた時だ。致命に至ろう一撃を受けながら、奴は咄嗟に地面に転がっていた短剣を拾い上げた」

「まさか!! 俺にゃあ、完全に意識飛んでたように見えましたぜ」

「ああ。だから本能だと言ったのだ。無意識の内に、奴はそれを行っていたのだろう」

 そんな事、ガドーの常識では考えられない。彼の知る常人ではありえない。

 しかし、そもそもそんな枠で捉えられるような男ではないのだ、あの東黄人の男は。

 壁の民と正面から堂々と打ち合ってしまえる超人。

 そんな者ならば、たしかにシドの言うような事が出来てしまうのかもしれない。

 そして事実、彼は勝利している。

 妄想や仮定ではなく、実際に勝利を手にしている。

 それが他ならぬ証明。

「なんて野郎だ……」

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