第218話

 目の前の光景に唖然となったのは、壁の民の観衆だけではない。レグスの勝利を願い、決闘を見守るガドーもそれは同じ。

「化け物染みてやがるぜ」

 入団の折に見せたレグスのあの短剣捌きからして、只者ではない事はわかっていた。

 それでもまさか、壁の民の戦士と真正面から打ち合ってしまうとは、想像以上も以上。ローガ開拓団の者達と比べても、間違いなく男の剣技は誰よりも優れている。

 シドもグラスもディオンも、この決闘に赴いたとして、男のようには戦えまい。

 剣音鳴り響き、空を斬る。

 レグスとブノーブ、二人の闘士の息もつかせぬ攻防に観衆達は魅入りこんだ。


 どれほど時間が経っただろうか。

 まったくの互角に見えた両者の戦いにも変化が表れる。

 レグスの肌には汗が滲み、吐く息には乱れが見え始めたのだ。

「見事だ闘士ゲッカ。見事だ黒き剣よ」

 対戦者のみならず、自身の大剣と打ち合い刃こぼれ一つせぬ黒い剣にも称賛を与えるブノーブ。

 無論この称賛は、己の勝ちを確信した余裕が生んだ称賛にすぎない。

「だが、相手が悪すぎたな!!」

 灰色肌の大男が大剣を振りぬくと、これまでと違いレグスの体勢が大きくよろめいた。

 そして足を一歩、二歩と後退させる東黄人の闘士。

 これまで時折見せていた距離感を図る後退とは明らかに違う、ブノーブの剣力に圧された後退である。

 その様子に、決闘を見守る誰もがブノーブの優勢を見て取った。

 東黄人の闘士はよく健闘した。しかしそれも間もなく終わる。

 そう誰もが思っていたし、当事者であるブノーブすらもそう考えていた。

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