第217話

「そんな腑抜けた攻撃、いくら繰り返そうが無駄だ!!」

 間合いを保ちながら、執拗に短剣の投擲を続けるレグスに対し、少々苛立った様子でブノーブが叫ぶ。

 それでも、顔色一つ変えずに東黄人の闘士は、同じ行為を繰り返す。

「臆病者め」

 鋭い軌道で飛んでくる短剣を打ち払い、悠々とかわし続けるブノーブ。

 レグスが投げつけ続ける短剣に、一切当たる気配はない。

 一本、さらに一本と数を減らしいき、やがて十本全てを使い尽くすと、それを見たブノーブが不敵な笑みを浮かべ言う。

「さぁ、これで仕舞いだ。……どうする、これ以上、曲芸紛いのその戦法も続けようがあるまい」

 レグスは黒い剣を構えたままブノーブを見据え、その場から動かない。

「臆して動けんか。……ならば、こちらからいくぞ!!」

 三フィートルの巨体が動き、レグスに襲い掛かった。

 一気に間合いを詰め、大剣を振り下ろすブノーブ。

 巨大な鉄の剣に、その大得物を軽々と振り回す壁の民の膂力。これが合わされば、それは想像も絶する一撃の破壊力を生む。

 まるで雷が落ちたかのような剣撃の響きが、場内に轟いた。

 その大きな音と共に、観衆がわっと沸いたかと思うと、彼らはすぐに息を呑むようにして静まってしまう。

 目の前に慮外の光景が広がっていたからである。

「ほう、これを受けたか」

 自身が振り下ろした大剣を黒い剣で受け止めるレグスを見下ろしながら、いささか感心する大男の戦士。

 彼から見れば、レグスの剣を支える腕の何と細く頼りない事か。

 そんな腕で異人の男は彼の一撃を流すも、避けもせず、真正面から受け止めてしまっていたのだ。

「見事だ。……だが、これならどうだ!!」

 嵐のような連撃を繰り出すブノーブ。

 その重く、荒れ狂う連撃の全てをレグスは堂々たる打ち合いにて防いでしまう。

 観衆達は驚くに驚いた。

 さきほど男が見せた短剣の投擲などという無様な戦い方からは想像も尽かぬ、見事な戦いっぷりに。

 いいや、それだけではない。

 ブノーブはこの冬一番の戦士である。彼の剣の技量を疑う者など誰一人存在しない。

 闘士として決闘に臨んだこの戦士は、壁の民最強の戦士と言っても過言ではないほどの者なのだ。

 そんな者を相手にして、二フィートルに満たぬ背丈の異人が真っ向から互角に打ち合っている。

 その事自体、易々と信じられるようなものではなかった。

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