第216話
『神々は堂々たる決闘を望んでおられるのだ』。
事実はどうであれ、決闘を愛する者達はそんな事をよく口にする。
決闘裁判という手段をあまり好まぬ壁の民達ではあるが、戦いの民として、いざ決闘となれば彼らも同じ思いを抱くわけである。
対してレグスはどうか。
彼が武器に選んだ禍々しさを伴う黒き剣も、十本もの短剣も、神聖なる決闘には相応しくないように思える。
現に、壁の民達は当初いい顔をしていなかった。
出来る事ならば、ブノーブが扱う大剣とまったく同じ物を武器として決闘を執り行いたいというのが彼らの思想であるが、しかし幾らなんでもそれは公平さに欠けるというもの。
武器に頼るなと言っても、扱い慣れた大剣を振るうブノーブに対して、その場で急に自分の背丈を優に超える大剣を持たされても、扱いきれるはずもなし。
互いに慣れ親しんだ武器を手に戦う。それでこそ一定の公平さが保たれるというものだ。
そういった理由があるからこそ、壁の民達は神聖な儀式である決闘に際しても、レグスの黒い剣の使用を渋々ながらも認めたのである。
もちろん、黒い剣に眠る力を開放する事など許されはしない。あくまでただの剣としての役目を真っ当する事だけが特別に許されたのである。
そして黒い剣の使用に加え、レグスは十本もの短剣を用意するよう壁の民達に要求した。
当然この要求を彼らが素直に呑むわけもなく、一悶着あった。
短剣を十本というのは見苦しく、卑怯な戦い方をする事が目に見えている、それは決闘に相応しくないと、壁の民達は言ったのだ。
しかしレグスは彼の理屈を以って、強引に要求を押し通す。
曰く、心技体の全てを尽くした戦いこそが神々に御見せすべき決闘であるならば、まさしく短剣を数多く用いる戦い方こそが自分の戦い方であるのだ、と。
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