第210話

 春の太陽の陽気と肌寒い風を受けながら、門街の住人達が一点へと移動し集っていく。

 門街の外れ、天幕群があった空き地の向かい側、そこがレグス達の決闘場となる場所だった。


 真昼が近付く頃には多くの壁の民達が集い、彼らは急ごしらえで用意された石段の上に腰掛ながら、その時を待っていた。

 決闘を見届ける為にここにやってきたのは、何もこの街の住民だけではない。

 ぎゅうぎゅう詰めの観衆席とは違い一区画だけ用意された様子の異なる貴賓席。

 見栄えや飾り気とはほとんど無縁の壁の民達がわざわざ準備したその場所には、武装された大男達に守られた壁の民の王と元老院議員達の姿がある。

 決闘の行く末を見届けようと、四百キトル南の王宮よりこの街へと彼らはやって来たのだ。


「陛下、そろそろ……」

 太陽の昇り具合を確認したガァガがそう言って伺うと、壁の民の王は無言で頷き、許しを出す。

 それを受けて彼は傍らの男に指示する。

「時間だ。……始めよ」

 祭服に身を包んだその男は王に一礼した後、観衆達の前へと足を踏み出す。

 ある種の期待を胸に秘めながら人々がどよめいた。

 だがそのどよめきも、祭服の男が手を上げるとすぅっと止んでしまう。

 そして、観衆は静かに男の言葉を待った。

「壁の地の守護者にして天界の十二神の僕たる王、ゴルゴーラの名に於いて、これより勇者バノバの子マルフスの裁きを執り行う」

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