第207話

 薙ぐようにして大男の大剣がレグスへ向けて放たれ、けたたましい衝突音が場に響きわたる。

 レグスは一歩も退く事なく、大男の剣を自身の剣で受け止めた後、打ち返すようにして斬りかかる。

 再び場に轟く、剣と剣の衝突音。

 そしてお返しとばかりに、今度は大男が大剣を振り下ろす。

 その繰り返し、その度に、戦いを見守る壁の民達からの喚声が上がりは消え、上がりは消える。

 レグスと大男の戦いは一進一退どころか不動、全くの互角であった。

「殺せ、殺せ、殺せ!!」

 動かぬ戦況の中、観衆からが上がった不穏な声が徐々にその勢いを増していく。

「殺せ、殺せ、殺せ!!」

 そして観衆達の声に込められた殺意の高まりが、割れんばかりの大喚声へと変化した時。

 レグスと大男の戦いにも動きがあった。

 観衆達の望みとは逆の動きが。

 それまで互角に斬り結んでいた両者の内、大男の方がじわじわと後退を始めたのだ。

 レグスが押している。

 二フィートルに満たぬ男が、三フィートルの大男とまともに打ち合って圧しているのだ。

「そうだ、レグス!! いけ!! やっちまえ!!」

 ファバの叫び声と同時に、レグスは勝負を決めにいく必殺の一撃を放つ。

 そして彼の剣は相手の上半身を一閃、斬り裂いた。

「よし!!」

 大男から飛び散る血飛沫を眺めながらファバはレグスの勝利を確信する。

 だが。

「殺せ、殺せ、殺せ!!」

 観衆はこの光景を見て、なお同じ言葉を叫び続けていた。

「なに言ってやがんだ、こいつら。勝負は決まったぜ」

 壁の民の観衆を馬鹿にするように笑い見た少年の顔。

「レグスの勝ちだ!! なっ……」

 しかしそれは、視線を再び血塗れの大男に向けた時、すぐに消えてしまった。

 大男は立っていた。

 致命の一撃を受けながらも崩れ落ちる事なく立っていた。

「ありえねぇ……」

 斬り裂かれた胸から血を吹き出しながら膝を折らぬ大男に、ファバは息を呑んだ。

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