第206話『不死身』

 裸の大地の上、少年の眼前に二人の男が立つ。

 一人は背丈が三フィートルはある壁の民の大男。もう一人は二フィートルにも届かぬ東黄人の男レグス。

 二者が手にする得物のサイズすらも大きく異なり、大男が手にする剣は相手の背丈を優に超えていた。

 彼らの周囲を囲む簡素な木造の柵の外側には、戦いの行く末、同胞の勝利を見届けようと壁の民達が溢れんばかりに集い、声援を飛ばしている。

 観衆の声には疑いは一切と存在せず、当然として、大男の勝利を信じているようであった。

 しかし、この場にはそうではない者もいる。大男ではなく、東黄人の男が勝つと考える者がいる。

 それが東黄人の少年、ファバであった。

「やっちまえレグス!!」

 ファバは壁の民達の喚声に気後れする事なく、自身に背を向けるレグスに声援を送る。

 壁の民達が同胞の勝利を信じているように、少年もまたレグスの勝利を信じていた。

 彼は知っている。この東黄人はあの巨漢の暴君ダーナンを殺しているのだ。

 それだけではない。家よりも大きな竜の亡霊すらも彼には敵わなかった。

 相手の背丈がたとえ三フィートルあろうと、レグスにとって取るに足らぬ事のはず。

「そんな野郎、あんたの敵じゃねぇ!!」

 少年のその声が後押しとなったわけではないだろうが、レグスがゆっくりと歩を進め始める。

 同時に、観衆の喚声は勢いを強めた。

 彼らの声に応えるように大男の方も、レグスとの距離を詰め始める。

 二人が歩を進めていく。

 ゆっくりと、静かに、堂々と。

 そして両者共に、自身の剣を構え、その間合いへと足を踏み入れる。

 この二人の男は今から殺し合わんとしているのだ。

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