第194話

 子供相手に大人気無く挑発を繰り返し男は笑う。

 その笑い声を聞きながら、息を整え、苦痛に涙を浮かべファバは呟く。

「ぶっ殺す……、ぶっ殺してやる……」

「おいおい冗談きついぜ。そんなへなちょこパンチじゃ、赤ん坊も殺せねぇよ」

「うるせぇ!!」

 再度殴りかかるファバだったが、今度は避けられ空振りに終わる。

「どこ狙ってんだ。パンチのやり方はさっき教えてやっただろうが。こうやるんだよ!!」

 拳を振り下ろそうとする男に対して上段に構えるファバ。

 しかし、男の攻撃は振り上げられた拳ではなく……。

「あっ、悪りぃ。手じゃなくて足の方がでちまった」

 蹴り飛ばされる少年。

「ちくしょう、卑怯な手使いやがって……」

「何だって? さっき言ったろ最近耳が悪くて困ってるって。もっと大きな声で言ってくんねぇかなぁ」

「ぶっ殺してやるっつってっんだよ!!」

 それからも同じ展開。

 いや、それ以下だ。

 ほとんど何も出来ず一方的に殴られ、蹴られ続けるファバ。

 ただの子供が大人の男とまともにやりあって勝てるはずもない。

 最初からわかっていた。わかっていた事だった。

――ちくしょう。俺だって……、俺だって……。

 遠退く意識の中で少年が思い浮かべていたのは、己よりも一回りも二回りも大きな相手を圧倒した男。

 かつて彼にとって絶対者であったダーナンを殺した男、レグスの事だった……。

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