第193話
壁越えを前に大きな問題を起こしたくないだろうという算段からのちょっとした挑発のつもりだった。
しかし気が付いた時には男の足が地面を蹴り、ファバの胴体へと向かっていた。
「がはっ!!」
地面を転がるようにして倒れ込む少年に対して、蹴り飛ばした男が言う。
「何だって? もう一遍言ってくれよ、最近耳が悪くてなぁ」
「おいおい、やりすぎんなよ」
にやにやと笑う男達。
蹴られた苦痛に耐えながら、少年が立ち上がる。
「何遍でも言ってやる……。てめぇらみたいな雑魚、壁を越えたところですぐにくたばるのがオチだってんだよ!!」
啖呵を切ったファバに対して、男達は互いに顔見合わせて肩をすくめる。
そして蹴り飛ばした男が再び少年に近付き、中腰となって目線を合わして言う。
「喧嘩売られて喚くだけの雑魚が何言ってやがる。その手は飾りか? 奴隷の小僧はご主人様の命令がないと、喧嘩の一つも出来やしないのかい?」
「俺は奴隷なんかじゃねぇ……」
「へぇ、じゃあただの根性無しってわけか」
我慢ならなかった。
馬鹿にされた事だけが理由ではない。
もっと別の衝動が少年を突き動かしていた。
「上等じゃねぇか……、やってやるよ!!」
無防備に晒されていた男の顔を勢いよく殴りつけるファバ。
少年にとってそれは渾身の一撃であったが、どうやら男にはほとんど効いていないらしい。
殴られた頬を片手ですりながら姿勢を正し、男が言う。
「弱いねぇ、弱すぎる。これじゃあゴブリンも倒れやしねぇよ。パンチってのはな、こうやるんだよ!!」
男の拳が少年の腹を打つ。
内臓が飛び出しそうな衝撃。堪らずファバは蹲る。
「おいおい一発だけでもうお寝んねかい、坊主。話にならねぇぜ、こりゃあ喧嘩にもなんねぇよ」
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