第195話
気を失っていた少年の意識が戻った時、彼は自身の天幕の中で仰向けとなっていた。
そのまま、己の身に起きた事を整理しながら天井を眺めんとするファバであったが、傍らに人の気配を感じ取り、慌てて身を起こそうとする。
しかし、動いたと同時にひどい痛みが全身に走り、たまらず苦痛に声を上げた。
「動くな。安静にしていろ。無理に動けば、それだけ治りが遅くなるぞ」
少年の傍らにいたのはジバ族の女カムだった。
「なんで……、あんたが、こんな所にいる……」
痛みに耐えながら問い掛ける少年。
「私がお前をここまで運んだからだ」
「……あんたが俺を助けたって? 頼んじゃいねぇぜ、そんな事」
「ああ」
「何遍言ったらわかるんだ。余計なお世話だって事が。俺はあんたの力を借りたいだなんて、これっぽっちも思っちゃいねぇ」
「わかっている」
「だったら!! ぐっ……」
体を無理に動かさなくとも、力むだけで強い痛みを感じた。
痛みのせいで、冷や汗が出るほどだ。
「……何が目的だ。悪いがここに置いてあるもんはほとんどあいつのもんだ」
あいつとはレグスの事。
「俺には金もねぇ、何もねぇ、やれるもんなんて何一つありゃしねぇぞ」
怒りに満ちた少年の顔。
とても助けてくれた相手に向けるようなものではない。
「そんな物必要ない」
少年とてわかっている。
この女が金品欲しさに人助けをするような人物ではない事など。
「だったら何だ。感謝して欲しいのか。勝手に恩に着せて、聖人気取りでもしようって言うのか」
それもない事はわかっている。
だから腹が立つ。
だからこそ許せなかった。
女の事ではない。
この女に助けられ、心配される、己が許せないのだ。
こんな少年でも、通りすがりの人間の気まぐれに助けられたのなら、礼の一つぐらい素直に言えたのかもしれない。
しかし、彼女は違う。明確に守ろうとしている。
ファバが子供だから。
圧倒的に弱い存在だから。
その事実が、少年には耐え難い。
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