第189話

 言葉が出ない、頭が痛くなってくる。

 ずれた親切ほど鬱陶しいものはない。

 それがどれだけ相手の為を思った助言であろうと、少年が必要としたのは優しい言葉掛けでも無ければ、品行方正な生き方でもないのだ。

 カムの思いやりなど、彼にとっては声を荒げる気力を萎えさせる程度の効果ぐらいしかなかった。

「わかった。わかったよ。あんたは良い人だ。よくも知らねぇガキ相手に、親身になって助言してくれてるって事もよぉくわかった」

「ならば……」

「だけど俺には必要ねぇ。今さらのんびり畑を耕して暮らしていく気なんてねぇし、鶏の卵拾いなんてのは話にならねぇ。俺に必要なのは、こいつだ」

 腰に挿した短剣を鞘から抜き、抜き身のそれを見せつけながら、少年は断言した。

「女の助言なんかいらねぇ。俺は強ぇ野郎と過ごして、そいつの戦い方を盗む。何年かかろうと、何度死にかけようが、俺は必ず盗み取って見せる。そうやって俺は強くなる。誰にも負けねぇぐらい強く」

「そんな力を手に入れていったい何をするつもりなのだ」

 似たような疑問に、咄嗟に答えを出せなかった時もあった、だが今は違う。

「何がしたいとかどうとかじゃねぇんだ。そうならないと同じなんだよ。誰かにぶん殴られるのに怯えて、誰かに大切なもんぶん盗られるのに怯えて……。そうならない為に、まずは力が必要なんだ。誰にも負けないぐらいの強さが」

「強さとはそんなものじゃない」

 いつか聞いた言葉だった。

「わかってるよ、そんな事は!! だけど偽物だってかまわねぇ。俺が欲しいのは、気にくわねぇ奴をぶっ飛ばす力だ。それが俺にとって、紛れもない強さなんだ。……あんたの言う立派な生き方をしたって、俺は俺自身に胸を張れねぇ。そんな生き方、御免なんだよ!!」

 他人に認められようと、他人に赦されようと、己が己自身を許せなければ、何の意味もない。

 少年は、少年が脆弱である事を許せなかった。

 だからこそ彼は力を欲する。暴力という他者を圧倒するだけの力を。

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