第178話
レグスが女の瞳の中に見た炎。
あれは信念無き者に宿せるようなものではないはずだ。
彼女は言った『私の心は腐ってはいない』と。
口先だけではなしに、そう言いきるだけの人物が、己の損得感情で幼い少年の危機を見過ごせるものだろうか。
そうレグスは考えていたのだ。
一つ溜め息をついてカムは言う。
「……彼らに頼んだ方がよほど安全だと思うが」
彼女の視線の先には監視役としてレグスに付いてまわる壁の民達がいた。
「壁の王の不興を買えば、下手をすればそのまま巻き添えになりかねない。いざという時、腕の立つ者が傍にいる方が心強い」
「お前の無茶の尻拭いを私にしろと?」
カムの問い掛けに悪びれもせずレグスは答える。
「その通りだ」
「……たいした男だな、お前は。……その頼みを引き受ける前に、聞いておきたい事がある」
「なんだ」
「どうして罪人を無理矢理助け出すような無茶をした。他人の言葉を疑うような真似は好きではないが、お前がそれほどに信心深い人間だとは思えない。それに、まさか本当に灰の地の情報欲しさだけにこんな事をし出かすほど愚かな人間でもなかろう。いったい何を考えている」
一瞬壁の民達の方を気にしながらも、レグスは彼女の質問に答える。
「何も深い考えがあったわけではない。自然と体が動いた。それだけだ」
「それだけだと?」
「何か理由付けが必要だと言うのなら、それも直感と言うより他にない」
「……お前は私なんかより、ずっとジバの民らしい男だな」
レグスの返答にカムは半ば呆れながら言った。
しかし、女の皮肉をレグスは相手にしない。
「返事は?」
「……いいだろう、その頼み引き受けよう。……ただし、条件がある」
女がファバの方を見る。
「お前の無謀が何れの結果へ転ぼうと、あの子を壁の先へと連れて行くのはやめると約束しろ」
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