第179話
彼女の言葉にもっとも反応を示したのはファバだった。
「ふ、ふざけんじゃねぇ!! なんでてめぇにそんな事言われなくちゃならねぇ!!」
「子供は黙っていろ」
カムの迫力ある一睨みに気押され、ファバは助けを求めるかのようにレグスへと話を振る。
「なっ……、お、おいっゲッカ!! あんたも何とか言えよ!! まさかこんな馬鹿な条件呑みやしないよな!? さすがに御免だぜ、そんな勝手!!」
ファバがカムの保護下に入るのを渋々承諾したのは、あくまでそれが一時的な処置だと考えていたからだ。
なのに、レグスの身がどう転ぼうと関係なしに壁を越えるなとは……、これでは話が違う。
ファバの反発も当然であった。
しかしそんな少年の反発に対して、気にする素振り一つも見せずにレグスの瞳は真っ直ぐとカムへと向けられている。
「ゲッカ、どのような事情があるかは知らないが、年端もいかぬ少年を壁の先へ連れて行こうなど、正気の沙汰ではない」
咎めるような視線をカムはレグスに向け続ける。
「もし、少年が特別な力ある者ならと思い、お前達の事は放っておいたのだが……、このような状況で私の力を当てにするようでは、どうもそうではないらしい」
女の言葉は怒鳴り散らすようなものではなかったが、それは力強く、そして紛れもなく怒気を含んでいる。
「お前が私に言ったのだぞ。想像するよりもはるかに恐ろしい地が壁の先には広がっているのだと。……だったら力なき者は置いていけ。それが道理だ」
彼女からしてみれば、面倒事を引き受けてまで救おうとしている少年の命を、みすみす壁の先で捨てる事になるなど我慢出来るものではない。
もし、壁の先でも生きていられるほどの力が少年にあるというのなら、この状況下で救いを求めるなど筋違いも甚だしい。
カムはレグスに選択をせまった。
壁の先を少年に諦めさせるか、あるいは彼女の力を当てにせず、彼らだけの力でこの状況を乗り越えていくのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます